人権意識【じんけんいしき】

 歴史的,社会的に規定された人権に関する思想,感情,理論,見解などの総体。人権【じんけん】とは,人間が人間として保有する権利で,元来は自然権【しぜんけん】,すなわち国家の成立以前から自然のまま人間がもっていた権利を意味したが,現代では国家成立後の諸矛盾を解決するために承認された政策的な後国家的人権も含められる。その点で人権は国権(国家権力=国家の支配・統治権)と矛盾することが多く,しばしば反対概念とみなされる。自然権としての人権は絶対的かつ無制限的であり,必然的に個人主義的な自由権的基本権と法の下の平等とが,人権保障体系の中心となる。こうした自然権としての人権観念はアメリカ独立革命,フランス革命の所産であるが,資本主義発展が人権侵害の要因となるに及んで,生活権的人権概念(女性保護,両性平等,社会保障,労働権,教育権など)が浮上し,さらに今日では高度テクノロジーの進展に対応する基本権として,たとえば,ヽ法生物兵器戦争を阻止するための平和的生存権,公害・自然破壊に対する環境権,9餡函資本の情報独占に対抗する情報権(知る権利),ず絞未鯏映僂気擦觚⇒,ァプライバシー権などが緊急の課題となっている。しかし,これらの人権拡張の要請に対して国家側は〈共同の利益〉(フランス),〈公共の福祉〉(日本),〈社会主義を堅固にする〉(旧ソ連)といった人権保障の除外規定を設け,人権縮小と国権伸長をはかろうとし,しばしば対立と矛盾が生じる。理念として不変の自然権的人権はともかく,後国家的人権は状況に対応して可変的であり,新たな状況を展望しうる人権意識で民衆側は武装し,国家権力をチェックする能力が必要である。

 日本では近世における儒教的な封建的身分制度と明治以降の天皇制国権主義【こっけんしゅぎ】とが合体した思想的伝統のもとに愚民統治的な支配イデオロギーが生産され,民衆に注入され続けてきた。〈知らしむべからず,依らしむべし〉の支配意識は,〈長いものには巻かれよ,太いものには呑まれよ〉の日本的ニヒリズムと権威主義を民衆側にいだかせ,場合によっては〈ならぬ勘忍するが勘忍〉というマゾヒズムさえ生み出した。こうした伝統的な思想と心情のもとでは,主体的な自立性によってのみ担われる*基本的人権【きほんてきじんけん】主義が根づくわけもなく,敗戦後の憲法の主要な柱の一つとしての人権概念さえ必ずしも民衆意識のなかに定着しているとはいえず,たえず国権主義の強固な復活の前に危機に瀕している。各地方自治体における市民*意識調査【いしきちょうさ】によっても住民の人権意識の低さは明白であり,それは低調な部落問題意識の状況と完全に相関しているばかりか,一般的な正義感や*ヒューマニズムの低水準とも照応している。

 人権意識の日常生活世界における表現は〈人権感覚【じんけんかんかく】〉とも呼ばれる。平等感,不公平感などがそれにあたる。ただし,そうした人権感覚も時代や状況の推移とともに変化するものである。たとえば従来は〈同じであること〉が平等であることのベースとされてきたが,最近は,〈異なってあることの権利〉の平等な保障を求める意識を人権感覚と呼んでいる。

(八木晃介)

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Last-modified: 2012-02-22 (水) 12:20:10 (974d)