本報告では、退去強制処分や難民不認定処分といった出入国管理にかかわる行政訴訟において、国際法、とりわけ国際人権規約がどのように評価されたかにつき検討された。この問題領域における判例は、概ね次の五類型に分けることができる。
(1)有罪判決と退去強制処分:1件
有罪が確定したため退去強制処分を受けた外国人が、その取消を求めた事例であるが、その論拠として、B規約第13条違反をあげた。
裁判所はこの点につき、当該条項は「外国人の追放が正当な理由及び適正な手続きに拠ってなされることを定めたもの」と述べ、当該手続きは適正であるからとして、原告の主張を退けた。
(2)「不法入国」と退去強制処分:12件
この類型では、主として退去強制令書の執行停止を求めているが、この主張に対する裁判所の判断は、概ね次のとおりである。
地裁段階では、少なくとも送還部分での執行停止を認容する傾向にあるが、高裁段階では、送還部分も含めて停止の申立を却下しており、この立場は現在も踏襲されている。問題は、その却下の判断において、国際法に基づく主張がいかに評価されたか、である。
原則論としては、国際慣習法上国家は外国人を受け入れる義務を負わないとして、世界人権宣言や国際人権規約も、この原則を前提とするものであるとする。
このとき問題となるのは処分に関わる手続や態様のみであって、退去そのものではない。そこで実際の制度を吟味した結果、身体の自由制限に対する適正手続条項(B規約第9条)、合法的に入国した外国人追放の適正手続条項(同13条)の義務をともに満たし、規約違反はない、という論法である。送還部分につき執行停止を認容した事例では国際法につき判断せず、国際法を吟味したものは押しなべて申立却下という、ある意味皮肉な結果となっている。
(3)合法的入国後の在留資格喪失と、退去強制処分:1件
本類型での判決でも、国際法についての判断はないが、送還部分の執行を認容している。
(4)日本人配偶者との「婚姻破綻」と在留機関更新不許可:4件
当該類型では、いずれも国際法について吟味していないが、一見して、漸次的に判断が厳しくなっている。
当初婚姻が法律上有効な限りは、「配偶者等」の在留資格を喪失しないとして、在留機関更新不許可処分取消を認容していたが、後に、婚姻の実質が吟味され、ついに昨年10月の最高裁判例にいたる。
事案の性質が極めて特殊ではあるものの、「配偶者等」であるためには、共同生活実態を要するとした。それを欠く限り、社会生活上の実質的基礎を失っているとして、処分取消を却下した。
ここでの問題は、有責配偶者が日本人であったとしても、入管法上の判断には影響しないとした点である。この部分につき、一般化されれば、極めて危険だとする意見が相次いだ。
(5)難民認定と上陸不許可処分:5件
本類型においては、いずれも難民認定手続における制約が、争点となった。
1986年の千葉地裁判決では、既に退去強制令書が発付されている場合、改めて一時庇護申請状態を回復しても、令書そのものの執行を拒めないため、申立の利益を欠くとして、申立を却下した。難民認定申請に関する時間的制約(いわゆる60日ルール)に関しては、難民条約上手続内容は締約国の立法裁量に委ねられており、法は、難民認定行政の公正、円滑な実施を図るものであって、合理性があるから、条約に抵触しないとした。
さらに、既に送還されている場合については、難民認定手続上、申請権者は日本領域内にいる外国人に限られ、外国にいる限り、その要件を満たしておらず、訴えの利益を欠くとして、申立を却下した。
退去強制令書と難民認定申請との抵触に関しては、難民が必ずしも有効な旅券を携行して入国するとは限らないことを勘案すると、果たして現在の制度に合理性があるかどうか疑わしい。また、60日ルールそのものに関してみても、難民の定義における「迫害を受ける恐れ」が、申請時又はその後にあるかどうかが問題になると解される以上、果たして合理性があるといえるか、疑問である。また、制約を緩和する動きが現在あるが、上記の解釈に照らせば、依然として問題が残るのではなかろうか。