〈第一報告〉 非嫡出子相続差別違憲抗告事件
本件は、遺産分割の審判事件において非嫡出子の相続分を嫡出子の二分の一と定めた民法規定が、憲法第一四条一項の規定に反するか否かが争われた事案の抗告審決定である。
本決定は、当該規定が嫡出子と非嫡出子とを相続分において区別して取り扱うものであるから、憲法の平等条項にいう社会的身分による差別に当たるとした上で、かかる取り扱いが合理的根拠に基づくものであるか否かを吟味した。立法目的の重要性に関しては、両者の相続分を同等にしても、配偶者の相続分には影響しないことなどから、家族関係の保護は、非嫡出子の個人の尊厳を犠牲にしてまで保護するような事態は極力避けるべきであるとした。
さらに自由権規約第二四条第一項などの精神に照らして、適法な家族関係の保護と子の尊厳との両者が両立するようにすべきとしている。目的と手段との事実上の関連性に関しても、法律婚家族が保護されるにしても、婚外子の出現を抑止することは期待できないことなどから、立法目的達成のためには実質的関連性を有するかどうか疑わしいとし、必ずしも合理的な根拠に基づくものではないとした。
しかし、同種の事案について最高裁大法廷の決定は、相続制度の制定が立法府の合理的な裁量判断に委ねられており、また当該規定が任意規定であるから、立法理由には合理的根拠があるとした。その上で、立法裁量の限界を超えたか否かを吟味し、当該規定が相続分を認めていること自体非嫡出子を保護しようとしたものだとし、さらに一夫一婦制による法律婚主義を採用している点からも合理的根拠があるとした。本件決定がより個人の保護に厚く、かつ近代法の精神に合致していることは言うまでもなかろう。
退去強制令書に基づく処分についての執行停止申立事件
本件申立人は、アフガニスタンの少数民族であり、支配民族からの迫害を避けて日本に不法入国し、難民申請をしたところ、東京入管収容場に収容された。本件は、かかる収容令書の執行停止を求めた事件である。
本件において裁判所は、収容による身柄の拘束自体が人権に対する重大な侵害であり、かかる行為を行政処分によって行うこと自体が異例であるから、より慎重に判断すべきだとし、更に申立人が難民としての保護を受ける立場にあり、入国許可を得るための期間の猶予や便宜を与えられるべき地位にあると述べ、収容はこの活動を阻害し、希望する国への入国の機会も逸してしまうことなどから、「回復の困難な損害」を生じるおそれがあるとした。その上で、申立人は本国において人種・宗教を理由とする迫害を受けるおそれを有する者であると認定し、退去強制令書の送還部分はノン・ルフールマン原則に反するし、収容部分は必要な限度を超える移動の制限に当たるから、退去強制令書発付処分は違法なものである可能性が十分存すると判断した。
他方、類似の他の事案では、収容による自由の制限や精神的苦痛などは収容の結果通常発生する限度の不利益であって、「回復の困難な損害」にはあたらないとし、是認できない特別の損害を被るおそれがあるとはいえないとして、執行停止の申立てを却下した。
前者の決定は、行政処分による身体的拘束の異例さを強調し、かかる観点から収容に関する判断は慎重になすべきとする一方、後者は単に方が身体的拘束を予想していることから、受忍すべき程度の損害であると安易に評価している。かかる判断には、憲法の命じる基本的人権の尊重が全く配慮されていない。日本入管制度の非人道性は、法的根拠の疑わしい全件収容主義を採ることに起因しており、早急に改める必要があろう。
〈第二報告〉 指紋押捺拒否国賠訴訟
指紋押捺を拒否した在日韓国人が、任意出頭を求められたところ、罪証隠滅及び逃亡のおそれがないとする陳述書を提出して応じなかった。これに対し警察は逮捕し、取調べにおいて下着一枚にして身体を検査し、強制的に指紋を採取し、傷害を負わせた。原告は、指紋押捺制度の違憲違法、逮捕・取調べの違法を主張して、損害賠償を請求し、指紋原紙・指紋票の返還を求めた。
第一審判決では、全ての請求を棄却した。他方控訴審では原告の請求を一部認容した。逮捕の必要性に関して、指紋不押捺罪の法定刑が少額であることから違法性・社会的非難の程度が軽微な犯罪であって、逮捕権の行使は謙抑的であるべきだとし、さらには逃亡・罪証隠滅のおそれもなかったと認定した。その上で逮捕状請求に関して京都府の責任を認めた。さらに裁判官による逮捕状発付に関しても、その裁量権を著しく逸脱したとして、国家賠償法上違法の評価をし、国の責任をも肯定した。
しかし、上告審では、第一審と同様の判旨を述べて、控訴審判決中の国・京都府敗訴部分を破棄した。本件では指紋押捺の合憲性・適法性についても争われたが、この点では控訴審において平和条約による国籍離脱者に人権を制限する必要性が十分ではなく、国民との間で不均等な取り扱いをする合理的根拠に乏しいという点で、規約第七条・第二六条に反すると疑う余地があるとしながらも、違反であると断定するには至らないとした。
本件では原告が自由権規約について極めて詳細な主張を展開した。それに対して裁判所は違法の判断には至らなかったものの、それ以前の判決に比してかなり踏み込んだ点で注目に値しよう。さらには憲法と規約規定との類似性を認めつつも、規約との適合性判断がより詳細に述べられており、このことから規約適合性判断が合憲性判断に実質的に先行したと考えられるのではないか。
(李 嘉永)