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更新日:2003.11.12
部会・研究会活動 <地域教育システムの構築に関する調査研究事業>
 
部落解放研究154号より
地域の成人式にみる教育コミュニティづくり
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大阪府豊中市泉丘地域における「若人のつどい」から-

大橋 保明

1 はじめに

 2001年1月、香川県高松市主催の成人式で新成人の一部が市長にクラッカーを投げつけた事件をはじめとして、全国各地で成人式が「荒れ」たことは記憶に新しい。こうした憂慮すべき事態は1999年1月の仙台市ですでに起こっていたようだが、「おとなになつたことを自覚し、みずから生き抜こうとする青年を祝いはげます」(国民の祝日に関する法律)という「成人の日」の趣旨からかけ離れた一部の新成人の行動に行く末を案じた人も多かったのではないだろうか。

  こうした状況を憂いてばかりもいられないと実行委員会に新成人の代表を含めて独自の成人式を行ったり、単なる同窓会ではいけないと広島市のように生涯学習・社会教育・平和への願いといった観点から新しい成人式に取り組む地域もでてきている。

 こうしたなか、大阪府豊中市の泉丘地域では、「荒れ」対策ではなく、「若い力を掘り起こし地域づくりに参画できる機会をつくる」ことを目指して、小学校にある公民分館が主催して2001年から地域の成人式「若人のつどい」に取り組んでいる。本稿では、「若人のつどい」の概要を紹介するとともに、教育コミュニティづくりの観点からその意義と可能性について考えてみたい。

2 泉丘地域の概要

 紙幅の都合もあり泉丘地域の概要については別稿に譲るが、必要最低限の情報については整理しておこう。大阪府豊中市は、大阪・神戸・京都三市を結ぶ三角形のほぼ中央に位置し、人口約39万を抱える府内有数のベッドタウンである。市の東側に位置する泉丘小学校区には約1万人が居住し、現在も人口が増え続けている。地域には豊中市立第17中学校があり、泉丘小学校の卒業生全員と東泉丘小学校および緑地小学校の卒業生の一部が進学している。

  1948年に府内で初めての公民館が豊中市に誕生し、翌年の桜井谷公民分館設置以降、現在は市内41小学校区に40公民分館が設置されている。「若人のつどい」を主催する泉丘公民分館は、1975年に市内で30番目の公民分館として活動を開始し、以来、泉丘小学校の余裕教室を拠点に活動してきた。余裕教室の減少に伴って2002年3月からは学校の敷地内に新設された「泉丘コミュニティルーム」に拠点を移し、他の地域組織とともに活動している。

  公民分館のサークルとして1997年4月に発足した「泉丘ボランティアサークル」は、ワッショイ文化祭や体育祭などの恒例行事はもちろん、日常的な取り組みとして小学生との工作・読書・料理活動のほか、総合学習で中学生と「ゆうゆうマップ」づくりに取り組むなど、地域教育活動には欠かせない裏方的存在である。

3  「若人のつどい」の概観

 前述の趣旨で始まった「若人のつどい」であるが、2年前に第1回を行う際は試行錯誤の連続であった。

  「『若人のつどい』立ち上げる第1回のときにね、もう私ら事例がないし若者を説得するのに苦しんだんですよ。苦しみぬいたんです。私の心は、とにかく集まってもうて30人でも40人でもいいから、いっぺんやってみなわからんなあ。やってみてからのことやと思ってたんですよ」(泉丘公民分館長)さまざまな事情から第1回はその年の3月に行われたが、17中12期生の新成人52名、全体で130名の参加があった(図1参照)。

  ボランティアサークルやおやじの会が朝早くから準備した料理や飲み物が机の上を埋め尽くし、中学校の二つの教室、家庭科室、そして廊下をうまく使いながら、公民分館長の挨拶、当時の担任からの挨拶、新成人と地域の人々との交流などが行われた。

 第2回以降は、市主催の成人式終了後に17中に移動して行われるようになり、この移動ひとつをとっても地域の人々が車で迎えるといった協力が得られた。参加者も17中13期生新成人118名、全体でも207名と倍増した。取り組みの様子自体は前年と同様であったが、新成人の代表がDJプレイを披露したり、当時のPTA会長らがギター演奏するなど前年にはなかった交流の場面が見られた。元PTA会長の「今日からは対等な立場で地域活動に取り組んでいこう。一緒にやろう!」というメッセージは印象的であった。

 第3回は中学校の体育館を使って行われた。17中14期生新成人131名、全体でも234名と前年の参加者数をさらに上回り、それまでの地域関係者に加えて、豊中市教育委員会関係者や豊中ケーブルテレビの取材スタッフ、府内他地域の地域教育協議会関係者などの参加もあった。当日の様子は泉丘公民分館のHPにアップされているのでそちらをご覧いただきたい。

4 「若人のつどい」の意味

 こうした新しい成人式の第一の意義は「成人の日」の趣旨が達成されることにあるわけだが、ここでは、当事者たちにとっての「若人のつどい」の意味について考えてみたい。

1 参加の広がりと協働の拡張

 新成人を中心に参加者が年々増えてきている状況はすでに見たとおりであるが、その内実にもう少しふれてみたい。

  図2は、参加した新成人の内訳を出身小学校別に集計したものである。17中卒業生に占める東泉丘小と緑地小の卒業生の絶対数が少ないということはあるものの、この二校の卒業生の参加が着実に増えている。

  また、数値では示せないが、地域側の一般参加者でも東泉丘と緑地の公民分館長をはじめとして両地域関係者が増え、市外からの参加も増えてきている。このことは、泉丘小学校にある泉丘公民分館が主催するどちらかと言えば泉丘寄りだった取り組みが、隣接校区、さらには中学校区全体へと確実に広がってきていることを示している。

 参加の広がりに伴って、取り組みそのもの―例えば場所の問題ひとつでも―も大きくなってきている。活動の無制限な広がりは実践者や関係組織に負担感を抱かせるものだが、ここでは取り組みの広がりとともに人々が協働する機会が自然な形で増えている。事前準備では、実行委員会内の打ち合わせや中学校との連絡調整がないと始まらない。案内状は地域の自治会長の協力を得て配布されるが、この作業によって自分の地区の若者の多さに気づくこともある。

  当日は、200人分の料理を朝飯前とばかりに作ってしまうボランティアサークルの面々、そこに加わる東泉丘・緑地地域の人々、料理運びや焼きそば作りなどを担うおやじの会の面々、新成人の迎えをかってでる地域の人々、そして学校への感謝の気持ちを込めて使用前よりきれいな状態でと後片づけは全員で…。協働の関係が限定的で固定的なものであったら、先述したような取り組みの広がりはなかったであろう。

2 人権への配慮

 「若人のつどい」では、地域に住む17中以外を卒業した新成人や障害のある新成人への配慮も見られる。障害のある新成人については、昨年3名、今年1名の参加があった。その母親から「市の成人式に行けないんですけど、17中に行っていいですか?」との問い合わせがあり、「どうぞ、どうぞ、大歓迎です」といったやりとりがあったそうである。公民分館が取り組んだホームヘルパー三級取得講座やボランティアサークルが培ってきた授産施設とのつながりなど、「安心」して送り出せる地域福祉の風土がこの地域にはある。

  また、豊中ケーブルテレビや公民分館だよりなどのメディアを活用して、取り組みの様子を「見える」ようにしたことは、新成人の親あるいは地域住民、さらには未来の新成人たちにとっても取り組みへの認識を深める良い機会となっただろう。後日その母親から届いた手紙には「来年はボランティアで料理を手伝います」とあったそうである。人権への配慮にかぎらず、あらゆる部分への細かな配慮が人と人とを確実につなげていくのである。

3 経験および記憶の共同体

 ここでは、私のフィールドノートからエピソード風にいくつかの場面を紹介したい。

 ひとつめは、当時の社会科の男性教師が挨拶したときの場面である。現在の勤務校などを話した後、「…みんなが中学生の頃にやっていた『今日の歴史』は今はやってないけどね…」と言った瞬間、新成人全員と地域の人の一部からビックリするほどの大爆笑が起こった。「今日の歴史」がどのようなものであったのかは確認できていないが、授業でのおもしろい恒例行事であったのだろう。そうした経験を共有しているからこその笑いであり、時が経っても「記憶が共有されている」ことを実感できる大切な場面であった。

 また、受付近くではこのような場面があった。晴れ着の女性がトイレに行く際、ボランティアサークル・メンバーが洗濯バサミを取り出し、晴れ着の袖が汚れないように手際良くまとめていったのである。何人かの様子を見るかぎり、この方法を知っている新成人はいなかったし、親からも教わっていないようであった。ボランティアサークルには自らの子どもを成人させているメンバーが比較的多く、そこはやはり人生の大先輩である。まさに「経験が生かされている」場面であり、「経験が伝承される」場面でもあった。

 不幸にも20歳のこの日を迎えられなかった二人の同級生の冥福を祈って黙祷する場面があった。当時の担任教師がその話を始めると、それまでざわついていた教室が一瞬にして静まりかえった。友人の死について教師が語っているときに雑談を続ける新成人はさすがにいなかったわけだが、それにしてもその静まり方は今でもハッキリと覚えている。卒業後のこととはいえ、友人あるいは教え子の死という「悲しみや苦しみを共有している」からこその場面であり、皆のつながりが確認できる場面であった。

 「記憶の共同体」とは、「自らの過去を忘れることのない共同体」であり、歴史を共有している共同体である(R・ベラー)。ここに挙げたいくつかの場面からは、共有した過去の記憶や経験を表出させるセレモニーとして「若人のつどい」が機能していると捉えることもできる。このことは、一見、過去の経験や記憶にのみ作用するように思われるが、「若人のつどい」の経験そのものが未来へも作用するのである。

  「今日は来ないつもりだったけど、みんなに会いたくて(東京から)はるばるやって来ましたが、来て本当に良かったと思います。今日こんなに盛大にしていただいて地域の方々や先生方にすごく感謝しています。私たちがこうして同窓会やれたのも大人の方々のおかげで、これからは私たちも伝えてお返ししていくように考えたいと思います」(新成人の一言)。

5 おわりに

 公民分館活動をベースに始まった「若人のつどい」は、自然な形で取り組みを広げ、多様な人々のつながりを広げてきた。第3回からは豊中市教育委員会の協力も得られ、豊中市公民館運営審議会でもこの取り組みの重要性が共有されている。「…泉丘地域では公民分館主催の手作り成人式『若人のつどい』が行われるなど、今までになかった斬新な活動が芽生えている。

  これらの諸活動をさまざまな機会に紹介し、更に広めて行くことが求められる」(豊中市公民館運営審議会「学校、家庭、地域の連携について[審議のまとめ]」2003年2月27日)公民分館活動は地域に根ざした公と民の調和によって成り立っているわけだが、「若人のつどい」をきっかけに泉丘地域ではより大きな公と民の「舞い(ダンス)」が演出され、地域全体にさらなる活気が生まれ始めている。

 大阪府では、2000年より教育コミュニティづくりを提唱し、その中核を担う組織「地域教育協議会(通称:すこやかネット)」の設置を府内の全中学校区(大阪市除く)に奨励してきた。小学校区単位の既存の取り組みとの関係や中学校区単位での課題・目的の共有の難しさから、具体的な活動に踏み出せない地域が散見される。

  「若人のつどい」でも、すこやかネットの「0〜15歳」という枠組みにはまらないため、現状ではすこやかネットとの関わりはない。具体的な方策として、未来の新成人である中学生にも―例えば吹奏楽部の演奏で新成人をお祝いするなど―参加してもらうことも考えられる。

  しかしここで重要なのは、活動を広げることでも、すこやかネットの枠組みにはめることでもなく、活動に参画する人々が「何が大切か」を共有し、「大切だけど…できない」ではなく、「大切だから…(多少の困難があっても)やってみる」という発想のもと、当事者にとって意味ある活動を地道に続けていくことなのである。

 本誌の主題に引きつけるならば、例えば、長年ムラの子の成長を見守ってきた青少年会館には若者の社会参画を支援するノウハウやネットワークがあり、こうした地域活動の中核を十分に担えるし、(期待を込めて)担うべきだろう。また、部落解放・人権研究所は、単年度事業として「『人権のまちづくり』事例収集比較研究・提言プロジェクト」に取り組んでいるが、本稿の「若人のつどい」を一事例とした地域活動は、部落/部落外、部落の有/無を超えた「まちづくり」の観点からも多くの示唆を与えてくれる。



  1. 泉丘小学校区を中心に隣接小学校区を含めた豊中十七中校区全体を指すこととする。
  2. ここでは、教育コミュニティを「教育を通じて人々のつながりが生まれ、ネットワークがつくられていく地域のことであり、そのような地域づくりをめざした活動」とおさえておく。(池田寛『地域の教育改革―学校と協働する教育コミュニティ』解放出版社、2000年)
  3. 大橋保明「大阪・豊中市立泉丘小学校校区」池田寛編『教育コミュニティ・ハンドブック―地域と学校の「つながり」と「協働」を求めて―』解放出版社、2001年、89〜94頁ほか。
  4. (参考)泉丘公民分館HP http://www.geocities.co.jp/HeartLand-Yurinoki/8681/
  5. エティエンヌ・ウェンガー他/野村恭彦監修・櫻井祐子訳『コミュニティ・オブ・プラクティス』翔泳社、2002年。ここでは、個人による「非公式な」情熱や願望と組織による「公式な」要求との「舞い(ダンス)」(緊張関係)がコミュニティを活気づけることが指摘されている。泉丘地域では、泉丘コミュニティルームの建設、府教委の「であい・ふれあい・まちづくりプロジェクト」の支援を受けて取り組んだ「ゆうゆうマップ(泉丘バリアフリーマップúK)」づくりなど、住民だけ、行政だけでは行えない取り組みが展開されている。

付記 いつも温かく調査者を受け入れてくださる泉丘公民分館関係者および豊中17中校区関係者の皆様に心より感謝申し上げます。