1 今回の会議の目的
- アジア・太平洋地域では、国連10年行動計画を策定した国は多くない。未策定国も「10年」の目的そのものは認めているが、「10年」を責任を持って実施する一義的責任は国家にある。今後に向けた戦略が必要。
- リジョン(域内)で、人権教育を推進してきた主要な主体はNGO。国家が人権を「認めた」ことを受けて、国家とNGOの協力も生まれた。そこで、「10年」最終年を迎える前に「10年」に顕著に貢献をしてきたNGOが主体となって、
- 経験をシェアする(フィールド範囲、地理的範囲、地域の問題にどう人権教育が答えているか、残された問題は何か)
- 評価(強みと弱み)
- 戦略をたてる(活用できる機会を明らかにし、リソースをはっきりさせる)
視点から今回の会議が11月タイのバンコクで開催。
2 主催者
今回の会議はARRC(人権教育のためのアジア・太平洋地域資料センター)というNGOとAPCEIU(国際理解教育のためのアジア・太平洋センター)という韓国の組織が共催、UNHCHR(国連人権高等弁務官事務所)が助成。APCEIUはユネスコの連携組織(カテゴリー2)で、国際理解教育の教師のトレーニング等、韓国国内と国外の両方で活動している組織である。韓国では域内の国際的なことに関わることがいわば国是の一つとなっており、国際的なことに関心が高い。
韓国でこれだけリジョンのことに貢献をしようとする組織が出来ていることに非常に驚かされた。
3 全体としての印象、問題意識
(1)アジア・太平洋というリジョンの広さ・多様性=人権の前提条件の多様性
- ポスト・コロニアル国家か否か、内陸部・海岸部などの地理的条件、東・東南・南・西アジアという幅広さ、宗教の違い(人権に関わる団体の圧倒的多数はキリスト教関係)
- 域内で共有する問題……人権という課題に関して世界の中で非常に多くの問題を抱えている地域であるという認識が共有された。
例えば、南アジアは世界でもっとも人身売買が多発する地域、アジアには世界の子どもの50%がおり、economically active(働いて経済活動に従事している)な子どもの50%もアジアに集中。
(2)参加者の国籍等
参加者の圧倒的多数はフィリピン人、韓国人であり、会議のマジョリティは南アジア、東南アジア出身者(ただし、日本人は少ない)ということになる。これは英語の問題が非常に大きい。
(3)国家人権委員会や国家人権委員会を監視するNGOの参加
国家人権委員会はいろんなパターンがあって、国よりのところもあれば、NGOよりのところもある。韓国のやり方が非常に面白いと思ったのは、まずサランバンというNGOが来ており、これと一緒に、今回、主催者側としてお金を出しているAPCEIUという組織(国の予算がかなりおりている)が来ており、それと一緒に国家人権委員会の人権教育担当者が来ているという点である。
4 個別の課題から
個別の課題として、主に<1>女性、<2>子ども、<3>若者、<4>移住労働者という4つのトピックを挙げて論議がなされたが、紙数の都合で詳細は省略する。
5 人権教育の様々な課題・展望
[ポリティカル・コンテクスト … 力関係を読み取る、政治的アプローチの重要性]
- 人権教育は広がっているが、その解釈・実践には幅がある。例えば、「教育への権利」はよくても、「子どもの権利教育」は受け入れがたいなどの意見。学習者が権利について知ると、力関係が変わる、すなわち政治的な影響があるから。力関係を読み取る、政治的アプローチの重要性
- 社会的、政治的、経済的な分析や人権教育実践家に政治教育を行うことも大切。
[公的機関・政府機関と人権教育についての課題]
- 人権教育は必ずしも政府機関に歓迎されないし、人権教育の見方も異なる場合がある。
- 制度化が進み、協力・コーディネーションが発展したが、課題も残る。
- たとえば、国家による教育=学校教育は運動を喜ばない。
- トップダウン的なプログラムのあり方には問題がある。
- モニター役としての国家人権委員会の役割が重要。
- 政府官僚の人権に対するセンシティビティを高めることが必要。
- 学校の人権教育の強化…学校の環境そのものが人権に沿ったものとなるようなカリキュラム、教師の研修、人権活動家が学校に関わることが必要。
[人権教育の対象者の広がり]
- 教材としては、若者向けのものが大切
- 「当事者」を中心に据えつつ、それ以外の人々に対する人権教育の必要性。傍観者に対する教育も大切。国家は人権に関して予防や促進の義務を持つが、傍観者の教育はそのような取組のひとつである。
- 現在、人権教育の対象者になっていない人々は誰か。非識字の人々、教師、地方自治体、地方政府、法執行者、国家人権委員会のメンバー、一般市民、メディア(メインストリームを変えるため)、ジェネレーション・X、金融機関、助成団体、とくに企業助成団体。
[教育の教材の内容について]
- 人権教育と人権トレーニングは別。区別する必要があるのでは。
- 人権をホリスティックに理解する必要。
[人材を育てることの必要性]
- 人権教育をフォローアップするメカニズムとして、当事者対象のトレーニングだけでなくトレーナーとなる人を育て、持続可能なシステムをつくる。
[人権教育の評価]
- スケール開発などの必要性が話題に上る一方で、人権教育は目的に向かう手段であり、人権教育自体が目的ではないので、「評価」に左右されないのではないかという意見もあり。
[第二次10年に対する希望。その期間に実施したいこと]
- 国連システムを使いこなすための情報提供、開発プロセスへの人権の統合等、課題は多い。
- 国連10年が終わった後のことを考えることが必要。現在、政府とさまざまな組織のネットワークは十分ではない。
[国家人権委員会の強化]
[人権教育、少なくともこれだけはおさえなければならないという基本的な教材の提案]
- 教材は数々あふれているが、基本の基本をフォーマットにした教材がいる。
- 各国や現場で共通にできる共通トレーニングプログラムが作成できないか。
- 会議のたびに「アジア的価値」などの議論が出るが、国際人権基準の承認は、人権教育者のサークルのなかでは自明のこと。そうした要素をきちんと盛り込む。
[NGOの役割]
- その場しのぎにならないような人権教育計画を(国)がつくるようはたらきかける。
- 政府は人権を認めているが、テロなどの問題などで広げられない現状。法律さえ守ればよい、という雰囲気を打破すべき。
- 人権を認めていても、治安維持法 national security law のある国がほとんど。
以上の報告を受けて、参加者の間で活発に意見が交わされたが、国際人権をめぐる状況に対してアクティブに行動するフィリピン、韓国等の国々に比して、国際的にもその存在を明示し得ず、国内的にも厳しい日本の人権状況に関わって意見が相次いだ。国際的な人権基準に則った人権教育のうねりを日本国内でより一層、強化するためにも、第二次国連10年に向けた働きかけとともに、国内人権委員会創設に向けた取り組みを一層強めていく必要性が確認された。