Home人権関係新聞記事DB>新聞で読む人権>本文
2007.07.11

新聞で読む人権
2007年4月-6月

アウト・カーストの動向

  • 2007年3月31日 日本経済新聞 大阪 被差別カースト優先入学枠の拡大 インド最高裁実施延期を決定
  • 2007年5月12日 読売新聞 大阪 低カースト政党躍進 インド最大州議会選

記事内容は、インド最高裁がインド工科大学をはじめとする有名国公立大学への被差別カースト子弟優先入学枠の実施延期を命じたことと、インドの最大州議会選挙において被差別カーストと低カースト層を支持基盤とする「大衆社会党」の躍進を報ずるものです。

1つめの記事に登場する「被差別カースト子弟優先入学枠」とは、インドにおけるアファーマティブ・アクション政策の一部で、政策全体は、インドでは「リザベーションシステム」と呼ばれるものです。この制度は、1955年に制定された「反不可触民制法(76年に「市民権利保護法」に改称)」に基づき、公的機関への比例的参加の確保を目的とするものです。リザベーション(留保)と表記されるように、機械的割り当てや単なる「優先」ではなく、入学試験や採用試験を経て優先枠が実現できるように「留保=リザーブ」されるシステムとなっています。

今回、最高裁が実施延期を下したのは、リザベーションシステムの否定ではありません。指定カースト(ダリット、Scheduled Caste:SC)と指定部族(先住の少数部族、Scheduled Tribes:ST)へ既に割り当てられていた22.5%枠は認めているのです。

しかし昨年、政府が「その他後進カースト(other Backward Classes:OBC)の子弟に割り当てた国公立大学への27%枠に対して実施の延期を決めたものですが、記事の書き方は「『優先枠』に対してインド国民も最高裁も反対している様子」とも読める書きぶりとなっています。

インドにおけるカースト制は少し複雑で、一般的に理解されているのは4つのヴァルナとヴァルナの外(ダリット)が存在するという制度をいいます。カーストとはヴァルナ内にあり、約3000を超えるといわれるカーストとサブカーストがあります。

解説上、大まかに区分すると「上位カースト」「中間カースト」と、ダリットを指す「指定カースト」、先住民の一部や少数部族を対象とする「指定部族」に区分けされ、そのそれぞれの中に、非常に多くのカーストが存在しています。そして、人口の半数を超える「中間カースト」内に、富裕な層が多いカーストや、貧困層が多数存在するカーストがあります。

「その他後進カースト:OBC」は、その中間カースト内の底辺層に対して、連邦政府や州政府が人口センサスに基づき「後進カースト」と位置づけたものが、全人口の27%にあたるわけです。

ダリット出身であり、ダリットの運動の最も有名な人物である故アンベードガル博士の草稿となる現インド憲法には、第15条(平等権)において「宗教、人種、カースト、性別、出生地を理由とする差別の禁止」が明記され、第16条には「公務への雇用における機会均等」、第17条「不可触民制の禁止」、第29条「少数者の利益保護」などが崇高に謳われています。しかし、実際には、カースト間の対立や、ダリット(SC)や後進カースト(OBC)に対する排除や差別には依然厳しい現実を抱えている社会といえます。

2つめの記事には、インド最大のウッタルプラデシュ州(以下:UP州)において、大衆社会党(バフジャン・サマージ党・BSP)が州議会選挙で単独過半数を占めるというものです。BSPは国会下院には15議席を保持するだけで、現シン首相の会議派を中心とする連立政権には閣外協力のみですが、BSPの女性党首マヤワティ・クマリさん自身はダリット(SC)の出身者ですし、BSP自体がダリットを支持基盤として存在しています。

インドは大きくて人口の多い国とのイメージは定着していますが、25の州と6つの連邦直轄地からなる合衆国でもあります。UP州は人口1億7000万人を抱える最大州で、1947年の独立以来17代の首相を数えますが、初代ネルーをはじめ大半がUP州の出身でもあります。

また、UP州はカースト対立や宗教対立の激しい州としても有名で、常にインド社会の縮図と言われてきました。地主層と小作農との対立の原点でもあった「ザミーンダール制」(地主が領域住民に対して地税を徴収する権利)の廃止を1950年代に全国に先駆け実施したのもUP州でした。

今選挙で、BSPが単独過半数を占めることが確定していますが、OBCを支持基盤とする社会党(サマージワディ党)が第2党を獲得することも確実視されています。