アイデンティティ【identity】

 自己同一性。<私は,何者か,いったい何になりたいと思っているか>をめぐる感覚や意識。エリクソンの精神分析的自我心理学の中心概念。<個人の独自性に関する意識化された感覚><体験の連続性を求める意識的な努力><集団的理想像との連帯>を意味する。一般的には,青年期におけるアイデンティティの危機が問題とされる。*マイノリティ・グループ(被差別集団)は、ネガティブなまなざしにさらされているので、自分自身と世界との内的統一感をもつことが困難であり,深刻なアイデンティティの危機に陥る。すなわち,社会の主流を占めるマジョリティの価値観やライフスタイルを身につけていけばいくほど,自分の生まれ育った世界(家族や仲間,言葉づかい,習慣,好みなど)が否定的なものにみえてくる(否定的アイデンティティ)。その結果,自分の不変性,連続性や帰属意識【きぞくいしき】が失われ,根無し草の感覚にとらわれ,自分が何者であるのか混乱し,生き生きとした存在感がもてなくなる(アイデンティティの喪失)。

 部落問題では,部落を離れ,学歴を身につけ,社会的に成功していくと,自分の出身を隠すようになる人が少なくない。差別されないように,部落とは無関係であるように振る舞ったり,極端な場合には部落を差別する人に同調することで身元隠しを行なう。このような否定的アイデンティティとの格闘のなかで、部落民であることを名乗ること(カミング・アウト)の意味は大きい。そのために*解放教育でも、肯定的なアイデンティティを取り戻すことが、重要な課題であった。状況の変化にともなって、最近では若者層を中心に、よりしなやかで柔軟なアイデンティティの模索がはじまっている。

→*部落民宣言

参考文献

  • E.H.エリクソン『アイデンティティ――青年と危機 改訂版』(金沢文庫,1982)
  • 石川准『アイデンティティ・ゲーム』(新評論、1992)
  • 藤田敬一編『"部落民"とは何か』(阿吽社、1998)
(野口道彦)

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Last-modified: 2015-12-03 (木) 21:09:29 (1468d)