プライバシー保護【ぷらいばしーほご】

〈情報の公開と知る権利〉

 国民の<知る権利【しるけんり】>に基づいて,行政機関の保有する情報の公開を促すことは,わが国の民主主義を強化するためにも大きな意義がある。わが国では情報公開【じょうほうこうかい】の法制化が先送りになるなかで,地方自治体の<情報(公文書)公開条例>が先行し,公開の請求件数,分野とも増大をみている。ただし,公開原則には国の安全あるいは外交情報,学歴,地位,財産など,個人のプライバシー保護について非公開にできる適用除外事項が定められている。東京都知事交際費公開訴訟において,最高裁は個人・法人とも相手方が識別できる情報については懇談などの具体的費用が他人に知られたくないと望むのは正当とみて公開しなくてよいという判断を示している(1993.1.27)。<知る権利>の制度的保障としての情報公開とプライバシーの尊重は,両立させていかなくてはならない重い課題である。

〈プライバシーの権利と個人情報の保護〉

 プライバシーの権利はもともと公開からの保護の意味をもち,有名人の情報やタレントのスキャンダルの取材,*興信所などによるプライバシーの調査報告を前提に,<一人に放っておかれる権利>とか<私生活をみだりに知られ,のぞき見されない権利>として理解されてきた。この伝統的な意味でのプライバシー保護は,わが国でも有田八郎元外務大臣のモデル小説「宴のあと」事件【うたげのあとじけん】において判例上法的救済が与えられる権利として承認され(東京地裁、1964.9.28),最高裁も個人の容貌の写真撮影に関して肖像権をプライバシー権の一つとして容認している(1969.12.24)。差別身元調査が憲法違反であることは最高裁判決が1975年(昭和50)に明確にしたが,大阪府は部落差別事象の発生防止という人権擁護を目的に,85年3月,〈*大阪府部落差別調査等規制等条例〉を制定した。

 一方,その後の高度情報化の急速な進展に伴うコンピュータリゼーションの時代に入って,公権力や私企業がコンピューターを導入して個人情報を収集,蓄積保管し,利用体制を整備するようになって,その適正化をはかるとともに乱用の可能性から人権を守る必要が生じてきた。最高裁は,思想,信条,前科前歴,病歴,収入,学業成績,社会的身分などが本人の承諾なしに第三者に開示されることは,人間の尊厳にかかわるものとしてプライバシー権の侵害とする(ノンフィクション「逆転」訴訟判決,1994.2.9)。さらに,氏名,生年月日,性別,住所,年齢,学歴,資格などの個人情報も,外部への漏洩,他目的(差別的)利用,提供の禁止のほか,閲覧の請求,記録の訂正・削除などを当該情報の当事者が請求できるようにしなければならない。ここにプライバシー権について新たに,個人情報を自ら管理し,他者にみだりに利用させないこと,すなわち自己情報コントロール権として保障する必要が生ずる。

 国は,88年12月に個人情報保護法を施行,地方自治体においては75年3月の国立市<電子計算組織の運営に関する条例>を皮切りに,84年7月の春日市,85年3月の大阪府島本町,同年6月の川崎市の各個人情報保護条例【こじんじょうほうほごじょうれい】など,急進展がみられる。なかでも90年(平成2)3月,部落解放運動と労働運動の共同の取り組みの成果として生まれた福山市個人情報保護条例【ふくやましこじんじょうほうほごじょうれい】は、プライバシー保護を通じて地域に人権擁護の輪を広げていく試みとして注目される。しかしこうした側面とは裏腹に,いわゆるネットワーク社会が到来するなかで,*パケット通信を使って<同和地区>名を調べたり,流布するといった差別事件が発生している(東京地裁は,1997年5月,発信者,運営会社,電子会議室管理者にそれぞれ名誉毀損の成立を認めている)。

 99年の第145国会において、組織的犯罪対策三法【そしきてきはんざいたいさくさんぽう】、*住民基本台帳法【じゅうみんきほんだいちょうほう】改正が成立した。前者のうち通信傍受法【つうしんぼうじゅほう】は捜査機関が組織的な殺人、薬物・銃器犯罪、集団密航の捜査に関して、他の方法では犯人の特定などが著しく困難な場合に、裁判官の発する令状によって、電話、電子メール等の電気通信を傍受(盗聴)できるとするもので、プライバシーの侵害や通信の秘密の不可侵(憲法21条2項)に違反する疑いが強い。運用面での監視、抑制が不可欠である。後者は国民の住所、氏名、生年月日、性別の情報を10けたのコード番号で一元管理するもので、国、自治体は全国民につけられた番号をもとに本人確認情報を行政事務に活用できることになる。番号以外の情報は第三者がどの市町村でも閲覧できる。要は、プライバシー保護との兼ね合いで侵害抑制の制度をどう作るかにかかっている。

*表現の自由

参考文献

  • 奥平康弘『知る権利』(岩波書店,1979)
  • 堀部政男『現代のプライバシー』(岩波新書,1980)
  • 阪本昌成『身元調査とプライヴァシー』(部落解放研究所、1990)
  • 佐藤文明『戸籍がつくる差別』(現代書館,1995)
(睫鈞胆 

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Last-modified: 2015-12-03 (木) 21:09:33 (1469d)