マージナル・マン【marginal man】

 異質な諸社会集団のマージン(境域・限界)に立ち,既成のいかなる社会集団にも十分に帰属していない人間。境界人,限界人,周辺人などと訳される。マージナル・マンの性格構造や精神構造,その置かれている状況や位置や文化を総称して,マージナリティと呼ぶ。マージナル・マンの概念は,1920年代の終わり頃に,アメリカの社会学者パークが,ジンメルの〈異邦人〉の概念(潜在的な放浪者,自分の土地を持たぬ者)の示唆を受けて構築した。パークは〈人種的雑種〉(たとえば、白人と黒人の混血児=ムラトー,スペイン人と先住民族の混血児=メスティーゾ,東洋人と西欧人の混血児=ユーラシアンなど)に典型的にみられるパーソナリティ類型(自我の分裂,行動の不安定,強い自己意識,激しい内面的緊張,根なし草の感じ,帰属への欲求の強まり)の持ち主を,マージナル・マンと呼んだ。つまり,〈人種と文化の葛藤から,新しい社会・集団・文化が成立した同じ時と場において生じたパーソナリティー類型〉を示すものとしてマージナル・マンをとらえた。

 マージナル・マンの理論は,多くの社会科学者によって,さまざまに批判と修正がなされた。たとえば,E.V.ストーンクィストによると〈二つ(もしくは二つ以上)の世界に挟まれて,それらの世界の不調和と調和,反発と誘引を主観的に反映する心理的不安のなかで,辛うじて身を支える人〉と定義されている。この概念は,ユダヤ人や移民にはうまく適用できるという指摘もある(G.ミュルダールら)。また,マージナル・グループと非【ノン】マージナル・グループの間にある〈障壁〉に注目する説もある(A.グリーン)。マージナル・マンは〈所属感の不安定〉から生ずる(K.レヴィン)とか,〈地位のジレンマ〉に陥っている人,あるいは自分の社会的同一化のなんたるかに困惑し,自分が成るべく期待された役割が不確かな人(E.C.ヒューズ)と理解された。

 マージナル・マンは、自己の内にある文化的・社会的境界性を生かして、生まれ育った社会の自明の理とされている世界観に対して、ある種の距離を置くことが可能である。それゆえにマージナル・マンは、人生や現実に対して創造的に働きかける契機をもっている。したがってマージナル・マンは、被差別の立場に追いやられるだけでなく、脱差別の方向を志向する場合もありうる。

参考文献

  • H.F.ディッキー・クラーク『差別社会の前衛――マージナリティ理論の研究』(今野敏彦他訳,新泉社,1973)
(今野敏彦)

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Last-modified: 2015-12-03 (木) 21:09:33 (1411d)