ルサンチマン【ressentiment】〔仏〕

 強者に対する憎悪・恨み・敵意を復讐のかたちで表すことができないために,これらの感情を内向させ,想像のなかで強者を攻撃することによって,自らの無力感を和らげようとする弱者の抑圧された心理状態をいう。怨恨【えんこん】・遺恨【いこん】等と訳される。これをフランス語のまま慣用化したのは,ニーチェである。ニーチェは,キリスト教道徳や近代の人道主義・人権思想は,弱者の強者に対する復讐心が道徳として発現した奴隷の道徳であり,社会主義の道徳も,その延長にすぎないとした。そして力や勇気を讃える強者の道徳をこれに対置した。これが後に民族・国家の力と美を讃えるナチズムに利用されるところとなった。またニーチェは,弱者の内向するルサンチマンの感情は,いつか強者の現世的道徳を否定し,超克して,新たな道徳を創造するとし,その例としてキリスト教の誕生と被抑圧層のルサンチマンの因果関係を挙げた。その後シェーラーは, ニーチェのルサンチマン論を引き継ぎこれを積極的に展開した。彼は,弱者である道徳的プロレタリアートが,優越者であるブルジョアジーに対してそのルサンチマンを発現するところに〈革命〉が生まれるとした。これに対して,ウェーバーは,ニーチェがいうルサンチマンの価値変革力を否定し,これにエートスを対置した。そしてプロテスタントのエートスが近代資本主義(の精神)を生んでいく歴史的過程を分析した。しかしルサンチマンが創造的なものか破壊的なものかは,それを抱く者の社会的立場やそれが表れる社会的脈絡により異なる。たとえば部落差別の場面で,差別意識をもつ貧しい非部落民は,部落民の生活の改善をねたむ。その〈*ねたみ意識〉は,自らが弱者で部落民が強者であるとい う倒錯した意識のもとでのルサンチマンの表れとしてある。これに対して,部落民が差別者に対して抱くルサンチマンは,差別に対する憎悪として,時として差別との闘いのバネともなり,人間解放の価値創造のバネともなる。

参考文献

  • F.W.ニーチェ『道徳の系譜 改版』(木場深定訳,岩波書店,1964)
  • M.シェーラー『シェーラー著作集』4・5巻(林田新二他訳,白水社,1977)
  • M.ウェーバー『宗教社会学論選』(大塚久雄・生松啓三訳,みすず書房,1972)
(青木秀男)

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Last-modified: 2015-12-03 (木) 21:09:34 (1358d)