移民労働者の人権【いみんろうどうしゃのじんけん】

 世界経済における南北・東西の大きな経済格差は,世界規模の人口移動=労働移住を惹起させている。従来,貧しい国から富める国への労働移住は,送り出し国のプッシュ要因=経済未発展,人口過多,失業,および受け入れ国のプル要因=工業発展,労働力不足,高賃金によって説明されてきたが(プッシュ・プル論),国際資本移動(外国直接投資)と,労賃が低廉で環境基準の寛容な国への生産拠点の移転が進んだ現在,この理論は見直しが迫られている。先進資本主義国の資本蓄積過程と密接につながった発展途上国(労働力排出国)に対する〈開発〉(輸出志向型農・工業の育成)という名の新植民地主義【しんしょくみんちしゅぎ】が,経済格差をさらに増大させ,それが国際労働力移動を加速させている。労働移住を引き起こす根本原因は,国家間の不平等関係にあり,労働力移動は資本主義経済の安価な労働力調達の体系的システムである。

 加えるに,移住先の労働市場においても移民労働者は,合法的労働者であろうとも,不平等状態におかれている。あらゆる国家において移民労働者は,法制的差別(入国管理法など)を被っており,外国人であるためにその労働力の自由な販売が制約されている。移民労働者が参入できる職場は,国内労働者が敬遠するような部門に限定されており,〈二重労働市場〉が形成されている。労働市場のみならず、移住労働者と国内労働者との居住地域も分断(*セグリゲーション)されており,移民労働者は居住・医療・教育など社会生活の諸側面において不平等な立場に位置する。

 1960年代以降,先進資本主義諸国は,定着しないことを前提に外国人労働者の導入に踏み切り,同時に農産物生産を辺境地域(発展途上国)へ移転した。外貨獲得のため,発展途上国政府の農業政策は換金作物重視のモノカルチャー生産へと変更され,農村の伝統的自給自足生活が破壊され,農村と都市の所得格差が増大し,それらの国ぐに(メキシコ,トルコ,フィリピンなど)の脱農した人々の都市への,そして国外への移住が急増した。安価な労働力をさらに必要とした工業発展国が,移民労働者の家族呼び寄せを容認したこともあって,外国人労働者は70年代半ばからさらに増大し,新たに女性の就労や子どもの就学問題が浮上した。構造的危機=不況に直面した先進資本主義国は,それから脱皮するために80年代から国際分業をさらに推し進め,国際大資本主導の経済活動の国際化に拍車をかけた。増大する先進資本主義国による直接資本投資(とくに金融・保険・不動産業などのサービス部門)は,発展途上国の累積債務を増加させ,そのことが資本投資国への従属を深化させている。また近年は,先進工業国への労働移住のみならず,新興工業国への労働移住も顕著になりつつあるが,どの国であろうとも,移民労働者は〈2等〉の労働力となっている。

*移住労働者権利条約*外国人労働者の人権

参考文献

  • 手塚和彰『労働力移動の時代』(中公新書,1990)
  • 駒井洋編『新来・定住外国人がわかる事典』(明石書店,1997)
(金子マーティン)

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Last-modified: 2015-12-03 (木) 21:09:35 (1358d)