因襲【いんしゅう】

 広義には,伝統的に受け継がれてきた風俗・習慣・制度のこと。英語のconventionの意味では,たとえば,日本における<左側通行>のような習慣・制度をも含んでいるが,日本語での<因襲>は,伝統的に受け継がれてきた風俗・習慣・制度のうちで,主として,現代ではむしろ望ましくないと思われる習慣・制度を意味することが多い。どんな習慣や制度が望ましいか否かの基準は必ずしも明確ではない。しかし,日常生活での交際の様式,冠婚葬祭の様式,年中行事など,そのすべてが因襲というのではないが,因襲として検討を要すると思われる課題の含まれている領域は広い。

 たとえば、冠婚葬祭をめぐって〈赤不浄【あかふじょう】〉〈黒不浄【くろふじょう】〉といわれる因襲がある。赤不浄は女性の出産・月経にともなう忌み・ケガレ観、黒不浄は死にまつわる忌み・ケガレ観である。いずれも、非日常的で異例な出来事と考えられているために、多くの禁忌(してはならないこと)が設けられている。ある漁村では乗組員の妻に妊娠中の者があれば不漁になると考えられているので、船と乗組員全員がおはらいを受けねばならなかったり(赤不浄)、死体処理で湯潅をする人はその前に湯潅酒を飲み、墓掘り役の人は事後に足洗い酒を飲んでケガレ【けがれ】を予防・払拭しようとする(黒不浄)例がある。現在では、こうした因襲自体は漸次弱くなってきているようであるが、このケガレ観が女性や死者を扱う人への*偏見【へんけん】の一面を形成しているように思われる。

参考文献

  • 波平恵美子『ケガレ』(東京堂出版、1992)
  • 大島建彦他編『日本を知る事典』(社会思想社、1988)
(野村 昭)

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Last-modified: 2015-12-03 (木) 21:09:35 (1295d)