家制度【いえせいど】

[家制度とは]

 一定範囲の親族集団が,伝統志向原理と家父長制【かふちょうせい】支配原理とによって統合されている日本の伝統的な社会制度。伝統志向原理は,昔から存在する秩序の神聖性を信じる信念であり,家父長制支配原理は,家父長の権威に対して恭順の念から服従する支配関係を意味している。この集団の系譜的連続や世代を超えた永続性への要求,家父長が持つ伝統によって聖化された権威に対する服従への期待は,この二つの原理から導き出される。このような家制度によって規制された日本の伝統家族を家という。また,家意識【いえいしき】とは,このように制度化された家規範が,個々人に内面化された価値観である。

〈構造〉

 家は,これらの原理に即して構造化される。まず,家の直系的な維持・存続を実現するために,_搬卸疎屬砲弔い討歪甲忙匯栂韻砲茲詆稱同居形態をとり,跡継ぎ以外の子どもは,分家,養出,婚出などにより排出することが原則とされ,∩蠡海砲弔い討癲げ伐杏漾ε槌山林などの家産や家業,系図・家名・家紋・位牌などの家の伝統の象徴を長男が一括相続・継承することが要求される。さらに,家長を頂点とする複数世代を統合するために,2箸梁限海砲かわる重要事項についての意思決定権を家長に集中し,構成員のそれぞれには直系・傍系別,性別により異なった役割を遂行することが要求される。このような性と年齢(出生順位)を基準とする*属性原理【ぞくせいげんり】によって構造化されているという意味で,家は構造自体に差別的要素を含んでいるといえる。

 このように家に内在する差別的関係は,さらに個々の家を超えた家と家との関係へも拡大する。家の出自関係の相互承認によって成立する同族団における本家による分家支配のみならず,家の系統とは直接関係のない家と家との間にも,家柄の良否や家格の高下といった上下的な地位が設定される。

 家柄【いえがら】(家格【かかく】)とは,本家筋・分家筋といった家の出自や連続の長短,地域への定着の新旧,先祖のたてた勲功や名誉などの評価基準が複合的に作用して決められる社会的評価をいう。すなわち貴賤,尊卑,高低などの家ごとの上下的な位置関係の設定,個人的業績に対してではなく,家を単位としてなされる社会的格付けをいい,集団や地域社会の中で,成員の相互評価に基づいて決められる。とくに評価の単位である家自体が超世代的に永続することを期待されたことから,この格付けは個々の家に固定し,代々受け継がれる傾向が強かった。

〈歴史〉

 古代の氏集団が直系的な家に分化するのは,11世紀後半の天皇家における直系的な皇位継承に始まるといわれるが,庶民階層にまで家が制度的に定着し一般化するのは近世に入ってからである。近世幕藩体制のもとで,武士,百姓,町人,その他さまざまな職業従事者が,それぞれの職業に即して家を単位として序列化され,家の相続・継承を通じて,身分とともに職業も家職(家業)として継承されるようになった。武士層では,知行制に基づく主従関係が固定化され,百姓層では,名請地を相続することにより家を継承していくことが体制的に確立されていった。

 近代に入って明治政府は,*戸籍法を軸にして家制度の整備を図るが,19世紀末の民法典論争を経て1898年(明治31)に制定された明治民法において,戸主権と家督相続制度を骨子とする法的な家制度が確立された。明治政府は,家の法的な整備と並んで,他方では家族道徳として儒教倫理を強調し,<忠>と<孝>の徳目を通じて国民の教化に努めたが,資本主義経済の進展,労働者家族を中心とする都市生活者の増加などにより,生活実態における家は漸次その性格を変化させていく。

 戦後の民法改正に伴う家制度の廃止と家イデオロギーから近代夫婦家族イデオロギー(個人の自立と男女平等)への転換は,伝統的な家制度に対してきわめてラジカルな衝撃を与えた。さらに1960年代に始まる高度成長経済の過程で,いわゆる<核家族化>現象が顕在化する。この時期には,核家族率は上昇の一途をたどり,出生率の激減,死亡率の低下,平均寿命の延長などの人口学的な変動と並んで,世帯規模の縮小や単身世帯の増加などの現象が顕著になる。70年代に入ると、<個人化>現象といわれる新しい家族現象が出現する。これは,これまでの近代夫婦家族が前提としてきた個人の生活目標と*家族の生活目標の両立という基本命題を超えて,個人目標を優先させ個人的な選択の幅を拡大しようとする傾向をいう。

 このように,戦後日本の家族は,大筋において家(直系家族制)の優位な極から近代家族(夫婦家族制ないし現代家族)の優位な極への移行を示している。しかし,この移行は一挙に進行するわけではない。親子2世代同居家族の存続や先祖祭祀にみられる家の連続性意識の強さなどに示されているように,伝統的な家的要素がなお規定力を維持している側面も否定しえない。現状では,伝統と近代,さらに脱近代が混在する多様化の傾向を示しているといえよう。

(光吉利之)

[結婚差別と家制度]

 被差別部落出身者との*結婚【けっこん】を避ける行為は,今日においてもかなりみられる。*結婚差別【けっこんさべつ】を生み出している要因にはさまざまなものがあるが,そのなかでも無視できないのは家制度・家意識である。家制度のもとでは,配偶者選択に際して家格が重視され,対等な家格の家から配偶者が求められる。これは一種の同一階層内婚であり,家産や家業を維持し,共同体内部における家の序列秩序を維持するためでもある。

 家意識は,共同体の構成単位である家を序列化していくが,被差別部落は,身分制度の記憶の残存から,<社会外の社会>としてみなされ,共同体の外側に排除されつつ,同時に共同体の序列構造においては最下位に位置づけられた。また,家制度のもとでは,結婚は個人の行為ではなく,家と家との結婚として受けとめられ,被差別部落出身者との結婚は,共同体内部での家の社会的評価(地位)の下落を招くと意味づけられ,忌避された。この場合,注意しておくべきことは,当事者である個人判断よりも,その結婚が共同体内部の構成員からどのように評価されるか(世間の目)が強く意識されたことである。

 このように家意識を強く残存させている地域社会では,部落出身者との結婚が忌避される。他方,近代夫婦家族制度のもとでは,結婚差別がまったくみられないかというとそうではない。核家族の形態をとりながらも,個人の自立が弱いため,親子の情緒的結合から,配偶者選択に関して親の意向が尊重される。そうした場合,親が部落に対する偏見を持っていると,部落出身者との結婚が避けられることが少なくない。このように,伝統的な家制度との関連だけでとらえるのではなく,現代の家族関係のあり方との関連でみていく必要がある。根強い親子2世代同居志向や<個人化>現象の進行が結婚差別の解消にとってプラス,マイナスいずれに働くのかは,今後解明すべき課題である。

(野口道彦)

参考文献

  • 川島武宜『イデオロギーとしての家族制度』(岩波書店、1957)
  • 有賀喜左衛門『日本の家族』(至文堂,1960)
  • 『有賀喜左衛門著作集』11(未来社、1971)
  • 喜多野清一『家と同族の基礎理論』(未来社、1976)
  • 『川島武宜著作集』第10巻(岩波書店、1983)
  • 青山道夫他編『講座家族 1.家族の歴史』(弘文堂、1973)
  • 野口道彦「家意識と結婚忌避」(『同和問題研究』16号,1994)

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Last-modified: 2015-12-03 (木) 21:09:36 (1467d)