解放【かいほう】

 人間性を束縛された状況を打開し,自由な存在になるために努力し,その目的を達成した状況をいう。解放された自由な状況を束縛するのは,歴史上,宗教,思想の観念的形態から,性、法,政治,労働にまでわたり,民族,階級,身分,職業,家族などの共同体的属性にまで及ぶ。マルクス主義の場合,階級的解放を中心にした唯物論哲学の体系化と実践を試み,資本主義社会を1世紀あまり激動させた。この社会主義革命による階級的解放の方向は、樹立された国家の非民主主義的性格(党官僚的国家)により,周辺の資本主義国家の自由主義・民主主義的競争力の高さに敗れた。しかし,いまも階級的解放の課題(雇用・道徳など)が残っており,それが,これまでのマルクス主義的方法で達成できるのかということが,21世紀の課題としてある。これには,旧植民地を基軸とした発展途上国の解放が,これまでのマルクス主義で可能かという問題もあわせ含まれ,先進国との経済支配と格差の縮小をみないなかで,ここでも21世紀へもちこされた課題となった。また,従来、解放への起動力として経済的離陸から高度化への予定コースも,自然の生態系の破壊という現実に直面して,これまでの手法や観念に反省を促すものとなった。

 日本史の展開のなかで解放という問題を<身分>と<階級>に即してみると,古代・中世社会では<賤>(奴婢・*非人・*えた)の問題があった。また,そのうえに,<凡>(平民)と<貴>の存在があり,階級的属性と身分的属性は分かち難く表出されていた。このなかで<賤>は職掌のうえでの<*キヨメ,*穢れ>の理念体系が顕在化するにつれて<*奴婢・*下人>と<えた・非人>に分裂し,同様に<凡>も<士>身分を分出した。さらに中世末期の社会では,地縁,血縁,職縁の共同体の姿が明確化し,近世社会を形成していく。

 近世社会では,支配的秩序化を幕藩体制下での全領民の身分戸籍化(宗門改帳,村明細帳など)に求め,ここに貴・士・平・賤の身分的体制は地方的・身分的偏差をもちながらも成立したのである。この身分制社会は,<士>を含めた全領民の職能的分業の上に成立し,それぞれの役負担をもちながら成り立っていた。この社会の解体は,資本主義的生産と流通の発達による人間の生活のうえでの利害の選択と職業や役負担からの自由追求で始まる。さらに,先進資本主義国である欧米列強の経済的,法的自由の要求が重なることで,これまでの近世社会の政治・法・経済体制は解体の危機に直面した。このような事態が,ブルジョア的解放ともいうべき局面であった。

 近代社会での重要な局面は,法や政治の自由化や変化が,国民の居住共同体(地域・血縁・職縁)の変化とつながることである。日本の場合,この共同体の解体は,生産形態(農業・零細資本の持続)のゆるやかな発展により,戦前の社会では不十分であった。このなかで被差別部落の場合*<解放令>は周辺の共同体社会のなかで開(解)放的な関係をとり結ぶことができず,自由(解放)の問題は他の国民と比較して不十分であった。この問題が全面的に表出したのは敗戦後の社会であった。

 戦後社会では,新憲法,*農地改革など被差別部落に関係する政治経済体制の変化があったが,共同体の変化は少なかった。決定的となったのは運動の要請による1969年(昭和44)の*同和対策事業特別措置法の実施である。ここで職業紹介,住環境改善,教育奨学金制度の実施をみたが,背景には日本史上まれにみる高度経済成長があった。部落解放同盟は,戦前の水平社時代を第1期,戦後の<特措法>時代を第2期とし,<特措法以後>から21世紀にわたる時代を第3期とした。そこでは米・ソ冷戦体制の終結のなか,社会主義革命による解放の再構築が可能かどうかも問われている。それは,これまでの運動のあり方を再点検し,<部落の完全解放>とは何か,<水平社宣言の思想にかえる>とは何かということであった。さらに21世紀の<すべての人々の人権を守る運動>をめざすこととつながることができるのかということである。このように<解放>を部落問題にひきつけて考えても,困難な多様性に満ちた時代に直面している。

(秋定嘉和)

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Last-modified: 2015-12-03 (木) 21:09:36 (1294d)