外国人労働者の人権【がいこくじんろうどうしゃのじんけん】

[外国人労働者とは]

 *出入国管理及び難民認定法【しゅつにゅうこくかんりおよびなんみんにんていほう】(以下、入管法)は、入国時に付与される〈在留資格【ざいりゅうしかく】〉により、就労可能な職種や期間を定めている。1989年(平成1)に改定された入管法では、27種類の在留資格が設置されており、そのうち、就労制限のない資格が5(永住者・日本人の配偶者等・永住者の配偶者等・定住者)、一定範囲内で就労可能(主に技術的専門的分野)が17ある。また、就労不可として文化活動、短期滞在、留学、就学、研修、家族滞在の6つがあるが、留学と就学は、1日4時間までの就労許可が比較的容易に取得できる。1980年代以降に激増した〈ニューカマー〉と呼ばれる外国人は、上記の留学・就学、定住での日系人、短期滞在での入国が圧倒的に多く、そのなかの何割かは、事実上労働者として存在するといわれている。95年の新規入国者は290万人以上で、全国での外国人登録者数は同年末日現在で136万人を上回っている。永住者等を除いた外国人労働者数は、32万人(法務省入国管理局の資料に基づき労働省が推計)とされているが、このほかに就労のための超過滞在者や資格外労働に従事する外国人が相当数いると推察されており、不法残留者等の数値から、国内の実態としての外国人労働者は、全体では60万人以上ともいわれている。これは、国内における雇用者全体の1%以上にあたる。この数値からもわかる通り、今日では、外国人労働者は事実上日本の労働市場や経済のある部分を担っている存在である。

[わが国の外国人労働者に対する基本方針]

 1995年に閣議決定された第8次雇用対策基本計画に基づき、経済社会の活性化や国際化をはかる観点から、専門的技術的分野の労働者については可能な限り受け入れることとする一方で、いわゆる単純労働者については、労働市場や国内の社会的費用の負担増加や送り出し国や外国人労働者本人への影響も大きいことから、国民のコンセンサスを踏まえつつ、十分慎重に対応するという姿勢がとられている。また、入管法においても、89年の改定時に資格外の外国人労働者の雇用罰則規定を設けて締め出す政策をとっている。現在、日本では、合法的に滞在し就労する外国人に対しては、公的扶助(生活保護)を除くほとんどの社会保障(社会福祉、社会保険、公衆衛生および医療、老人保健)が適用されている。一方で、これら資格外労働に従事する労働者については、その一部が法律上の解釈として適応可能であるとされるにすぎず、実際には、法務省の措置との関係で排除されることも多い。

[資格外就労者が抱える問題]

〈医療〉

 医師法によれば、外国人であることを理由に診療を拒否されることは建前上ないが、現実には、超過滞在者等に対する医療拒否は全国で報告されている。理由は、在留資格のない外国人や在留資格が1年に満たない外国人は国民健康保険への加入を拒絶されており、高額な医療費を当人が払い切れず、結果として医療機関が負担せざるを得ないためである。医療費の不安から重症になるまで受診しない外国人も多く報告され、人権問題であるとの見地から、一部の地方公共団体で、〈旅行病人及旅行死人取扱法〉を適用し、外国人患者を外国からの〈旅行病人〉として医療などを与える措置が広がったほか、外国人未払い医療費の補填や補助事業を実施している団体もある。また、民間の取り組みとして、横浜と豊島(東京都)で未登録外国人を対象にした保険制度も誕生しているが、いずれも、医療行為に限界があり、根本的な解決策が実施されるまでの暫定的な措置でしかない。

〈労働〉

 現在日本には、労働関係の法令が7つあり、いずれも、労働者としての実態があるものについては、国籍の区別なく、入管法上の就労資格の有無を問わず適応される。しかし、資格外就労の場合、雇用者が雇用発覚を恐れて非協力的であったり、制度を知らない、あるいは知っていても入国管理局への通報を恐れて本人が拒むことが多いため有効に機能していない。資格外就労の外国人が労働者災害補償保険の給付を受けた事例は、1995年度で276件(労働省)。92年度をピークに減少に転じているとはいえ、一般的な労働災害発生率が1.5〜2%であることや、彼らの多くがいわゆる3K【さんけー】(きつい、きたない、危険)労働に従事していることを考えれば、実際の適用はごく限られた場合のみといえよう。また、興行目的で来日するエンターティナーの女性の場合、実際は労働者である場合が多数だが、興行はあくまで芸術的才能を披露するとの建前から、健康保険等への加入は認められないほか、全生活を管理下に置かれ自由がないなど、大きな人権問題となっている。

〈住宅〉

 住宅問題は、在日外国人全体に共通する問題でもある。とくに、民間賃貸市場での外国人への冷遇傾向は、バブル経済崩壊後の空き家対策として、ここ数年多少やわらいできた感もあるが、根本的に解決したわけではない。日本人が外国人に部屋を貸したがらない理由は、生活ルールが異なることから発生する迷惑行為が多く、無断転貸借する、家賃滞納、住宅設備の使用が荒く修繕費がかさむ等のほか、外国人との対応に戸惑う、漠然といや、などがある。外国人住民を多く抱える自治体(東京都と新宿区)が、住宅関連条例のなかで、国籍による居住差別の解消や啓発を盛り込んでいる事例もあるが、罰則規定がないうえに民事不介入の原則がある以上、現実問題として規制は難しいとされている。一方、国では、79年(昭和54)に批准した*国際人権規約A規約や82年の〈*難民条約〉への加入に伴い、外国人への公的住宅の賃貸について、外国人登録を行なっていれば日本人と同様に扱う措置を講じてきた。しかしながら、事実上外国人がこれらの情報にアクセスすることは言葉の問題などから困難が伴う。未登録の外国人に対しては,公的住宅への門戸は開かれておらず,民間に頼らざるを得ないが,超過滞在や資格外就労の外国人の場合は,前述の入居差別に加え,賃貸契約時に外国人登録や在留資格を条件とされるなど事実上困難な場合が多い。その結果,雇用主が用意した住宅や友人宅への同居などに頼るしかなく住まいの独立性を確保することが難しい,低水準の住宅や住宅以外の空間で生活せざるを得ない,過密居住である,法外な〈入居料〉を請求される等の問題を抱えることになる。しかし,これらは,ニューカマーの流入以降に浮上した新しい問題ではない。1930年以降に急増した朝鮮人労働者の当時の居住環境をみると,日本人家主が入居拒否をした理由は,既述したニューカマーに対するものとほとんど同じである。

〈教育〉

 ニューカマーの中長期滞在に伴い,外国人の子どもをめぐる課題が浮上している。外国人登録を行ない正規に滞在する外国人は義務教育を受けられるが,超過滞在者を親に持つ子ども,さまざまな理由から無国籍となってしまう子どもたちの場合は,幼児検診や予防接種,健康保険への加入,義務教育などさまざまな行政サービスを受けられない場合が多い。

 外国籍の幼児,児童・生徒が急増した保育所や小中学校では,本人だけでなく保護者との意思疎通をどうはかるかや,文化的・生活習慣的・宗教的な相互理解の点でさまざまな混乱が発生している。小中学校では,日本語教室の設置,生活学習面での個別指導専任者の配置や現場の教職員の熱心な取り組みを経て,表面的には,外国人児童・生徒の学校生活への適応は進んでいる。しかし,現在の教育プログラムが,意思疎通に必要な言語学習の域を超えて学習思考言語の習得にまで至っているか,アイデンティティの確立にも深く関係する母語と母文化を尊重するものであるかという点では,課題も多い。また,比較的日本社会に早く適応する子世代と親世代の意識の違いから起こる家庭不和などの問題も深刻である。

参考文献

  • 労働省職業安定局編著『外国人労働者の就労・雇用ニーズの現状』(労務行政研究所,1997)
  • 梶田孝道『外国人労働者と日本』(NHK出版,1994)
  • 高藤昭「外国人と社会保障」(『都市問題』87巻2号,1996)
  • 井野佳一「外国人未払い医療費対策事業」(同,1996)
  • 宮島喬・樋口直人「医療・社会保障――生存権の観点から」(『外国人労働者から市民へ』有斐閣,1996)
  • 旗手明「外国人の子どもと医療」(『日本で暮らす外国人の子どもたち』明石書店,1997)
  • 稲葉佳子・塩路安紀子・松井晴子・小菅寿美子『外国人居住と変貌する街――まちづくりの新たな課題』(学芸出版社,1994)
  • 太田春雄「日本語教育と母国語教育――ニューカマー外国人の子どもの教育課題」(『外国人労働者から市民へ』有斐閣,1996)
(小菅寿美子)

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Last-modified: 2015-12-03 (木) 21:09:36 (1469d)