釜ヶ崎【かまがさき】

〈二つの俗称と街の概略〉

 通説によると、〈釜ヶ崎の名称は関西本線(新今宮駅周辺)以北に存在したが、1900年(明治33)4月の町名改称で南区水崎町となり、公に消滅した。関西線以南の今宮地域に釜ヶ崎の俗称が残った理由は不明〉(『西成区史』1968)とされている。だが、22年(大正11)3月23日付『大阪府広報』には〈西成郡今宮町大字今宮字釜ヶ崎の各一部を甲岸・東入船・西入船と改称する〉とある。上記3町名は73年(昭和48)の町名改称で大阪市西成区萩之茶屋1丁目あるいは同2丁目となったのであるから、通説とは逆に、同地域一帯を指して釜ヶ崎の俗称が残ったことの理由は明らかであるとされなければならない。釜ヶ崎にはもう一つの俗称がある。 66年5月のいわゆる〈第5次釜ヶ崎暴動〉の後、釜ヶ崎対策に関する三者協議会(大阪府・市・大阪府警本部)で使用が決められた〈あいりん地区〉がそれで、マスコミ関係者が使い続けたため、釜ヶ崎よりも広く知られるに至っている。三者協議会のいう〈あいりん地区〉とは、五つの町名を含む0.62平方kmの地域で、人口約2万8000人、簡易宿泊所【かんいしゅくはくしょ】(ドヤ)が200軒近く存在する日本一の簡易宿泊所街(収容能力約1万9000人)である。約2万人の日雇い労働者が生活し、近畿を中心に全国各地で就労することから日本最大の日雇い労働市場ともいわれる。

 〈あいりん総合センター〉(1階フロアおよび周辺道路が相対方式による求人求職の場となる)内には日雇い雇用保険求職者給付金(通称アブレ手当)の支給を行なう〈あいりん労働公共職業安定所〉、職業紹介や労働相談を行なう西成労働福祉センター、手持金がないとき借用書で医療を受けることのできる西成医療センター、健康保険の手続きを行なう社会保険事務所出張所がある。その他の行政施設には、同地域の労働者の民生窓口とされている大阪市立更生相談所や西成市民館、西成警察署などがある。

〈街の特色と差別〉

 二つの俗称の存在は、釜ヶ崎の街の特色が他地域と比べ際立ったものであることを示している。それは〈暴動〉の起きる街というだけではない。

 1995年(平成7)10月の国勢調査によれば釜ヶ崎の中心部といえる萩之茶屋1・2丁目の人口は1万0487人で、男女比は男9人に対して女1人に満たず、1世帯あたり人員は1.09人である。また、90年の国勢調査によると萩之茶屋1・2丁目には8489人の建設業雇用者が住んでいたとしている。

 建設業で日々雇われて働く単身男性の多く住む街であるという特色は、65年頃から強まり現在に続いている。その特色から、釜ヶ崎に住む労働者は〈独り者で責任がなく、その場その場で何をするかわからない人たち〉(1985年、大阪・浪速区での建設労働者用宿舎建設反対運動関係者からの聞き取り)とみられている。そこには、〈所帯〉を持てない者に対する伝統的な軽視がみられるし、〈アンコ・立ちん坊〉という言葉に端的に表れている日雇いという求職形態への蔑視がうかがわれる。

 就労の不安定さは生活の不安定さであり、野宿(路上生活)を余儀なくされる労働者も多い。JR新今宮駅周辺で野宿を余儀なくされている労働者を見た漫画雑誌の編集者は、漫画の一コマに出た地名〈西成〉に、〈大阪の地名。気の弱い人は近づかない方が無難なトコロ〉と注を付けた(『別冊フレンド』1996年3月号)。ここにはもっともよくある差別再生産の構造が示されている。一般に流布されている野宿者・西成に対する偏見・差別が前提にあり、それを垣間見た現実に無批判に適用し、自己の体験に基づくものとして改めて取り入れているのである。この事件は〈西成差別事件〉として知られている。〈釜ヶ崎差別〉の存在が、同地域の抱える問題の解決を困難にし、行政の怠慢を許し続けているのである。

〈釜ヶ崎における諸活動〉

 25年以上実行委員会方式で続けられているものに〈仲間から1人の死者も出すな〉をスローガンに掲げて行なわれている〈越冬闘争〉、そして盆踊りを中心とした〈夏祭り〉がある。いずれも労働者のカンパを主要な財源とし、多数の労働者の参加で運営されている。釜ヶ崎の高齢化に伴い、高齢者のための仕事確保の要求も高まり、わずかではあるが高齢者清掃事業が行政によって実施されるようになっている。そのほかに労働組合3団体(全港湾建設支部西成分会・釜ヶ崎日雇労働組合・釜ヶ崎地域合同労組)や釜ヶ崎キリスト教協友会を中心とするキリスト教諸団体の活動がある。

*西成差別*寄せ場*ドヤ街

参考文献

  • 釜ヶ崎資料センター編著『釜ヶ崎 歴史と現在』(三一書房、1993)
  • 中島敏『写真集ドヤ街――釜ヶ崎』(晩聲社、1986)
(松繁逸夫)

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Last-modified: 2015-12-03 (木) 21:09:37 (1417d)