環境と人権【かんきょうとじんけん】

 環境と人権の密接な関連についての認識は,20世紀後半になって急速に進んだ。その背景には現代の戦争,原子力発電所事故,地球環境そのものの危機といった広範囲の人と環境に被害をもたらす出来事がある。また,その事態に対処するために、人権と民主主義の理論と法の発展をはかる努力も進んだ。

 環境と人権が関連する問題領域は,ヽ吠軸錙て妊ス,細菌,枯葉剤などの化学兵器の使用,核実験など戦争行為とその準備,科学技術文明の負の所産である大気・水汚染,各種産業公害,地球温暖化,オゾン層破壊,環境ホルモン,酸性雨,産業や生活による廃棄物の処理など,自由競争を原理とする資本主義経済のグローバル化による世界的不平等の深刻化,すなわち貧富の差の拡大,飢餓と飽食への分極化,自然資源とエネルギー資源の浪費と欠乏等々に及ぶ。

 こうした現代の課題に対処するために,人権と民主主義に関する思想と理論の拡大・深化が求められている。平和的共存権,大気・水・日照・静穏・風景など環境についての諸権利(環境権【かんきょうけん】),環境の情報へのアクセス権,開発行為に対する住民の自己決定権などが,司法の場で主張されている。また,自然生態系と共生する文化をもつ先住・少数民族集団の先住権,文化享有権が認知されつつある。今後の重大で困難な問題として,国民国家とその国民という資格での個人を,法的な権利主体およびそれを現実化する制度とみなしてきたシステムを拡張し変更することがある。すなわち一国家の国境内部には収まりきらない問題での人権保障制度の整備である。

 たとえば,熱帯雨林で暮らしてきた少数民族が森林伐採によって生活圏が破壊されるなどといったように,自己の生存権を奪われる決定については国境を越えてその意思決定過程に参加し,意見を述べる権利を保障するなど、国際人権の確立,有害廃棄物の他国への持ち込みや処分の規制,エネルギー・自然資源の開発・利用に関する公正を実現し,次世代のために保存するための地球規模での契約とその履行を義務づける世界法規およびその執行機関をどうつくるか,などである。

参考文献

  • 花崎皋平『アイデンティティと共生の哲学』(筑摩書房,1993)
  • 同「共生の理念と現実――アイヌ文化振興法の成立と『共生』の今後」(『岩波講座現代の教育』5巻、岩波書店,1998)
  • クリスチャン・ベイ「新しい世界人権秩序」(岩波書店編集部編『現代世界の危機と未来への展望』1984)
  • 宮崎繁樹編『現代国際人権の課題』(三省堂,1988)
(花崎皋平)

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Last-modified: 2015-12-03 (木) 21:09:37 (1411d)