寄せ場【よせば】

 基本的には〈人夫出し〉業者の配下にある手配師が日雇い就労者を募集する路上の労働取引の場を意味し、俗に〈青空労働市場〉ともいわれる。ただその仕事の取り引きが、多数の*日雇い労働者【ひやといろうどうしゃ】たちが居住している簡易宿泊所(ドヤ)街の近くにある公共労働紹介施設の周辺で行なわれることから、日雇い労働者街という特定の地域が、通常は〈寄せ場〉と呼ばれている。

〈人足寄場と現代の寄せ場〉

 ただしこの名称は学術用語ではなく、江戸時代の〈人足寄場【にんそくよせば】〉をもじって、日雇い労働運動の指導者によって作られた概念とみてよい。人足寄場は、農村の疲弊から江戸に大量に流入した無宿人の取り締まりの必要から、火付盗賊改め長谷川平蔵の建策により無宿人の更生施設として石川島に隔離的に設営された。ただその他にも、各地の鉱山において水替人足を強制的に集める寄場が成立していたことに注目したい。寄場人足のこのような懲罰的な狩り集めおよび下罪人としての監視と虐使、総じてその行刑的な性格を現代の日雇い労働者に投影して、寄せ場労働者という概念が成り立ったと考えられる。今でも、日雇い労働者のたまり場である寄せ場や〈*ドヤ街〉に警察の監視カメラが設置されているのは、そこが依然治安対象として扱われていることの象徴といえる。

〈重層的下請け構造の末端〉

 かつては製造業などにも日雇い労働者は存在したが、今ではその産業分野は建設業に特定されている。請負産業である建設業は特異な労務構造をもっており、大手総合受注会社(ゼネコン)は工事計画業務に携わるのみで、建設労働者は直接雇っていない。労働力の供給に関しては,まず直系の名義人会社に1次下請けに出し、そこからさらに鳶、重機、型枠、鉄筋、解体などの専門工事会社に2次下請けに出し、次いで一般土工を中心とする業者へと3次下請けに出し、さらにまたその下方へ雑役を含む建設仕事の日雇い労働者を集める零細な〈人夫出し〉業者、手配師と下請け関係が続く。この複雑な雇用労務は〈重層的下請け〉構造と呼ばれ、寄せ場の日雇い労働者はその系列の最末端に組み込まれていることになる。この部分には暴力団が関与している場合が多く、ヤミ金融などの面でも寄せ場に深く食い込んでいる。それゆえ日雇い労働者は、末端下請けの部分で賃金の中間搾取を受けるばかりか、労働力需要の変動によって仕事にあぶれることから、生活保障のないきわめて不安定な生活を強いられている。

〈寄せ場の人権問題〉

 このような無権利・無保障の状態におかれた寄せ場労働者であるから、高齢化するにつれて仕事にあぶれる日々が続き、野宿生活がむしろ常態となる。それゆえさらに健康がむしばまれ、ますます悲惨な状況に突き落とされ、〈行旅死亡〉がその結末となることもある。寄せ場で突発する〈暴動〉は、日雇い労働者へのこのような非人間的な処遇に対する抗議行動にほかならない。最近ようやく、寄せ場労働者と野宿者【のしゅくしゃ】の人権問題に注目する動きが始まりつつある。

*下層社会*スラム、*釜ケ崎、*山谷*寿町*笹島

参考文献

  • 人足寄場顕彰会編『人足寄場史』(創文社、1974)
  • 江口英一・西岡幸泰・加藤祐治編著『山谷』(未来社、1979)
  • 青木秀男『寄せ場労働者の生と死』(明石書店、1989)
  • 八木正編『被差別世界と社会学』(明石書店、1996)
(八木 正)

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Last-modified: 2015-12-03 (木) 21:09:37 (1417d)