共生【きょうせい】

 <共生>という言葉は,日本では1980年代以降,学界やジャーナリズムでよく使われるようになった新しい言葉である。共生には二つの問題領域に即した意味がある。一つは環境問題に沿った<自然と人間との共生>という意味であり,もう一つは差別問題に即した人間と人間の社会的関係における意味である。

 自然と人間との共生は,科学技術文明の発達と巨大開発,そこから生ずる環境汚染・*公害,自然資源の際限のない消費などによる地球生態系と人類の存続の危機,未来の世代に対する現世代の責任をめぐって語られるようになった。その趣旨は,人間の営みが地球生態系を破壊してしまう前に,それを,人間や動植物の生命が再生産可能な循環のサイクル内に抑制する方向へ向け直すよう求めることにある。

 社会的関係における共生とは,障害、性,人種,民族,階級,地域,文化,宗教などにおける差異を差別に転化しない知的・道徳的理念である。差別は,各時代,各社会の多数者や強者やその立場の価値観に追従する者が,少数者や弱者や自分たちとは異なるとみなした者に,善悪,優劣,美醜,高低,貴賤などの評価を一方的に下すところに生ずる。共生の理念は,社会関係がその都度一定方向に意味づける力が作用する場であることを認識し,そこでの評価の一方向性,上下序列化を反省することから生まれた。すなわち差異を差別へと転化するのではなく,水平的で相互的な多様性の関係としてとらえ,多様性を祝福する。自己と他者との関係を共生の理念で律することは,人権観の具体化であり深化である。これからの世界社会は,国家や民族や文化を<自他を隔てる壁>とし,<外を退け内を守る>自国・自民族・自文化中心の立場を克服し,多文化・多民族・多社会が共存し,ローカルであり,かつグローバルであるような個性的な文化を創造し、支え合う共生社会となることが望ましい。

参考文献

  • 花崎皋平『アイデンティティと共生の哲学』(筑摩書房,1993)
  • 川本隆史編『新・哲学講義6 共に生きる』(岩波書店,1998)
(花崎皋平)

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Last-modified: 2015-12-03 (木) 21:09:38 (1300d)