刑法【けいほう】

 1907年(明治40)4月24日制定(法律45号) 犯罪の成立要件と法律効果としての刑罰を定めた法の総称。1995年(平成7)に全面的に現代用語に改められた。刑法は<罪刑法定主義>の建前から,あらかじめ処罰すべき行為を法律で明確に定めておかなければならず,慣習などによって犯罪や刑罰を作り出すことは許されない。また,刑罰法規は人権保障の見地に照らして適正なものでなければならず,さかのぼって適用したり類推解釈をしたりすることも許されない。

 こうして刑法の適用は一般的に謙抑的でなければならないとされるのであるが,一方において,わが国の刑法にはドイツ刑法の〈民衆煽動罪【みんしゅうせんどうざい】(憎悪の挑発や煽動)〉(130条)のような規定がないため,部落差別の行為については,それがいかに反社会的犯罪性をもつものであっても,有効に取り締まることができないという批判がある。刑法は名誉毀損罪【めいよきそんざい】(230条)や侮辱罪【ぶじょくざい】(231条)を規定してはいるが,公然と事実を摘示するか,事実の摘示がなくとも公然と人を侮辱することが要件とされているため,差別的行為や差別発言が一対一でなされたときはこれらの犯罪は成立しない。また*差別落書きなども特定人を対象とするものでないかぎり刑法上の犯罪とはならない。それどころかかえって,差別に対する糾弾行為が暴行・脅迫・強要などの罪に問われる可能性さえある。その意味で,刑法は部落差別の解消にはほとんど役立っていない。しかし最近は,*糾弾する側に明白な犯罪的意思が認められないかぎり,<期待可能性>がないとして犯罪の成立を否定する裁判例も目立つようになってきた。

 従来,解放運動の側にも,差別を法によって取り締まれという要求があった。しかし,いかなる行為を〈犯罪化〉し、いかなる行為を<非犯罪化>すべきかは,社会意識の変化を見きわめたうえ,国民的合意のもとで慎重に判断しなければならない。

参考文献

  • 上野勝「現行法制度における部落差別の法的規制の内容とその限界」(『部落解放研究』33号,1983)
  • 団藤重光『刑法綱要総論』3版(創文社,1985)
(森井 〓*1

*1 日ヘンに章

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Last-modified: 2015-12-03 (木) 21:09:39 (1388d)