国際人権規約【こくさいじんけんきやく】 International Covenants on Human Rights

 〈経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約〉(資料編A-2)International Covenant on Economic, Social, and Cultural Rights(社会権規約【しゃかいけんきやく】またはA規約と呼ばれる。1976.1.3発効)、〈市民的及び政治的権利に関する国際規約〉(資料編A-3)International Covenant on Civil and Political Rights(自由権規約【じゆうけんきやく】またはB規約。1976.3.23発効)、〈市民的及び政治的権利に関する国際規約の選択議定書〉(資料編A-4)Optional Protocol to the International Covenant on Civil and Political Rights(第1選択議定書。1976.3.23発効)および〈市民的及び政治的権利に関する国際規約の死刑の廃止を目標とする第2選択議定書〉(資料編A-5)(死刑廃止議定書【しけいはいしぎていしょ】、1991.7.11発効)の四つの条約の総称。1966年12月16日*国際連合【こくさいれんごう】第21回総会において、社会権規約、自由権規約および第1選択議定書が採択され、その後、89年に第2選択議定書が採択された。国際人権規約は、*世界人権宣言【せかいじんけんせんげん】とともに、国際連合が当初に予定した〈国際人権章典【こくさいじんけんしょうてん】〉を構成し、戦後50年間の国際連合の人権活動を支えた基本文書であり、人権の国際的保障の分野で国際社会が打ち立てた金字塔である。79年9月21日、日本において両規約は効力を発生したが、両選択議定書を日本は批准していない。99年1月1日現在、社会権規約と自由権規約はいずれも140以上の国が締約国であり、選択議定書は95カ国が締約国である(1999.9現在)。

〈人民自決権【じんみんじけつけん】〉

 両規約とも1条に人民の自決権が規定された。この規定は国際人権規約の特色を示すものであり、ヨーロッパ人権条約にも米州人権条約にもみられないし、世界人権宣言にもない。自決権【じけつけん】は、政治的地位を自由に決定する権利と、経済的社会的および文化的発展を自由に追求する権利と自国の天然資源を自由に処分する権利を内容としている。これは欧米諸国の植民地支配のもとに長らく苦しんできた諸国にとって、是が非でも獲得すべき権利であった。〈外国による人民の征服、支配および搾取は、基本的人権を否認〉(植民地独立付与宣言)【しょくみんちどくりつふよせんげん】するものであり、集団の権利である自決権の十分な保障のないところに個人の権利の保障はないからである。こうして自決権が個人の権利である個々の自由権・社会権に先立って、第1部1条に規定された。

〈人権保障の原則【じんけんほしょうのげんそく】〉

 国際人権規約は第2部2〜5条の〈一般規定〉で、人権保障の原則を述べている。2条では、すべての者に対し、人種、皮膚の色、性、言語、宗教、政治的意見その他の意見、民族的・社会的出身、財産、出生または他の地位等によるいかなる差別もなしに、人権を保障する。したがって、国籍はとくに明記されていないが〈他の地位〉に含まれ、内外人平等【ないがいじんびょうどう】の原則が適用される。この非差別・平等原則を受けて、人権の〈実体規定〉(第3部)の権利享有主体は、いずれも、〈すべての者〉〈何人も〉とされている。ただし、いくつかの規定においては、とくに〈女子〉〈母親〉〈妊娠中の女子〉〈児童・年少者〉〈少年〉〈児童〉〈18歳未満の者〉を権利享有主体として規定し、また参政権は市民(=国民)の権利と規定し、〈少数者(マイノリティ)〉の権利も保障している。この考え方は、まず〈人間〉の権利を保障するとともに、これまで人権保障から差別的に排除されてきた社会的弱者をとくに保護するためである。3条では、男女平等を掲げ、国際人権規約の保障する人権が最低限の基準であって、各国がそれ以上の内容豊かな人権保障することを期待する最大限保障をうたい、さらに、闘う民主主義の諸原則を定めている。

〈国の義務と履行確保措置〉

 国際人権規約の保障する人権は、世界人権宣言で定める人権にほぼ対応し、世界人権宣言の市民的・政治的権利が自由権規約に、また経済的・社会的・文化的権利が社会権規約に、それぞれより詳細かつ精密に規定、条約化された。世界人権宣言にある庇護権や財産権などは姿を消し、新たに追加された重要なものとして少数者保護【しょうすうしゃほご】規定がある。これらの人権を規定する国際人権規約は、国家に対して次のような義務を課している。社会権規約の規定がプログラム的性格をもつことについては異論はないが、非差別・平等原則(2条2項)は漸進的実現をはかればよいというものではなく、即時的実施を要求している。自由権規約も即時的実施義務を締約国に課している。同時に、自由権規約には、婚姻をめぐる諸権利を定める条項のように、プログラム的性格の条項もあり、また、とくに期限の定めをせずに立法化を義務づける条項もあることから、〈自由権規約も社会権規約同様に漸進的実現をはかる条約である〉とする考え方もあるが、自由権規約は即時的に実施されることが予定されており、国内法制の不備は条約義務違反の口実にはできない。

 国家による条約義務の履行を確保するため、国際人権規約は両規約ともに国家に報告義務を課し、自由権規約の定める人権に関しては個人通報制度【こじんつうほうせいど】を選択的制度として採用(第1選択議定書)。社会権規約は義務的報告制度【ぎむてきほうこくせいど】のみを定め、国家の報告は国連事務総長を通じて提出され、85年に新設された社会権規約委員会【しゃかいけんきやくいいんかい】が審議し、一般的勧告を行なう。自由権規約に関する国家の報告は、規約人権委員会【きやくじんけんいいんかい】(Human Rights Committee【human rights committee】,*自由権規約委員会【じゆうけんきやくいいんかい】とも訳す。ただし、世界人権宣言や国際人権規約の各草案を準備し、現在も活動している*国連人権委員会Commission on Human Rightsとは異なる)が審議する。自由権規約は、他国の条約義務違反の人権侵害を規約人権委員会に国が通報する制度を、選択的な制度として設けた。

〈日本と国際人権規約〉

 国際人権規約の人権規定と日本国憲法の人権規定とを比較すると、全体的かつ概括的にいえば、国際人権規約は日本国憲法の人権規定を補完・補強し、少なくとも詳細かつ精密化し発展させるもの、と評価できる。国民の人権保障の観点からは、国際人権規約が日本において発効したことは画期的な意味をもっており、しかも、外国人に対しても平等に人権を保障することとなり、その結果、数多くの*国籍差別が撤廃されてきた。国際人権規約は、憲法98条2項により、特別の立法を待たずとも国内的効力をもち、これに抵触する国内法は改廃の措置が必要である。なお、日本は、スト権の原則的付与、公休日の報酬、高等教育の漸進的無償化の3点を留保しており、これらの規定は日本に適用されない。

(芦田健太郎、金 東勲)

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Last-modified: 2015-12-03 (木) 21:09:41 (1358d)