差別【さべつ】

〈差別の定義〉

 個人の特性を無視し,所属している集団や社会的カテゴリーに基づいて,合理的に説明できないような異なった(不利益な)取り扱いをすること。差別には本来,明確に区分するという意味が含まれているが,ここで取り上げるのは,本来平等であるべきものを不平等に取り扱うという社会的差別である。そのような社会的差別にしても,何を差別ととらえるのかについては万人が納得するような基準はない。<本来平等であるべきもの>という認識自体が,社会や時代とともに変化するからである。つまり,人権意識の深まりとともに,今まで差別ととらえられなかったものが差別と認識されるようになる。たとえば,*セクシュアル・ハラスメント(性的嫌がらせ)や定住外国人問題における国籍条項をめぐって、最近10年間ほどの短期間で社会一般の認識は大きく変化した。認識の変化をもたらすうえで,被差別者側からの異議申し立てや解放運動がきわめて大きな役割を果たしてきた。

〈差別と社会規範〉

 差別を社会規範との関係でみると,々臻‥<差別>【ごうほうてきさべつ】,⊆匆馘差別,8朕妖差別【こじんてきさべつ】の三つに分けられる。,蓮ぐ曚覆辰深茲螳靴い鬚垢襪海箸社会規範となっているもので,大多数の人が差別と考えないものである。たとえば,封建社会では,<分をわきまえろ>という規範が確立し,身分制度を支えていた。<分をわきまえない>行動,すなわち身分によって<差別しない>ことは,秩序を乱すものとして非難され,さまざまな社会的制裁が加えられた。△蓮ず絞未紡个垢覦杁朕修稽てが行なわれることによって差別と認識されるようになる。しかし,まだ一部には差別と認識しない人々が存在し,差別を奨励・黙認する集団規範と差別を許さない社会規範との葛藤状態にある。しかし、社会的差別は力関係における不平等を基盤に,ある特定の社会状況によって生み出されたものであり,時代や状況に依存しているものであるから,社会関係のあり方を変えることによってなくすことができる。は,差別を支持する集団・社会階層は消滅したが,個人レベルで好き嫌いといった程度で残存している状態のものをいう。たとえば,教師が,個人的な好みによって生徒をえこひいきするような行為である。差別は人間社会からなくすことができないという見方があるが,個人的差別のレベルでは,そういうこともいえる。

 差別の対象となるシンボルによって分類すると、生得的なものと、後天的なものに二分される。人種,民族,カースト,性別,出身国,宗教,身体的なハンディキャップなど,さまざまな差異が差別の対象とされる。これらの多くは,生得的属性であり,生まれたときすでに決まっており,個人の努力で変えることのできない属性である。部落出身であることによる差別はその典型である。他方,学歴や職業,従業上の地位,思想など,後天的に獲得した属性に基づく差別もある。

〈差別行為〉

 差別は,行為,態度,意識,文化,制度,あるいは差別の結果現象など,さまざまなレベルのものも含めて使われるが,基本的には行為レベルのものを指す。差別行為【さべつこうい】には,集団的抹殺,暴行,財産の略奪といった身体的暴力という激烈なものから,差別扇動,侮辱,差別表現など,言語的攻撃ないし直接侮辱する意図はないがネガティブな意味づけを含んだ慣用的表現,さらには排除,*忌避,無視などの隠微な行為まで含まれる。部落差別の場合は,かつては*<解放令>反対一揆に代表されるような部落の焼き打ち,虐殺,暴行がみられたことがあった。また現代では,*就職差別,*結婚差別,そのための*身元調査,同和地区の隣接地域での居住を避けることなどが,その顕著なものである。最近では*差別落書き・*差別表現が多発している。

 行為以外のものは,態度レベルでは*偏見,意識レベルでは*差別意識,差別観念,文化やイデオロギーのレベルでは*人種主義,反ユダヤ主義,貴賤観,浄穢観など,制度レベルでは<制度化された差別>などがある。

 *同和対策審議会答申では,部落差別【ぶらくさべつ】を*実態的差別と*心理的差別との二つに整理している。前者は,同和地区住民の生活実態に具現された差別であり,劣悪な生活環境,高率の生活保護率,際立って低い教育文化水準などを指している。これは長年にわたる差別の結果生じた現象ともいうべきものである。また後者は,意識,観念だけでなく行為をも含ませており,厳密な概念ではない。

〈差別の機能〉

 なぜ差別が存続するのか。その原因については,(亳【へんけん】,⇒害・搾取,J断支配【ぶんだんしはい】,っ畚維持,ナ顕宗Εぅ妊ロギーなど,さまざまな考え方がある。偏見説は,差別は非合理的な偏見が生み出したものであり,外集団への恐れや敵意に動機づけられたものとみる。この考え方は,アメリカでは1960年代まで主流を占めていた。利害・搾取説は,差別は自己の利益をはかるものであるとする。O.コックスは,資本家が労働力やその他の資源を勝手気ままに搾取するために人種差別を作り出したと考えた。また,A.メンミは,<人種主義とは,現実の,あるいは架空の差異に,一般的,決定的な価値づけをすることであり,この価値づけは,告発者が自己の攻撃を正当化するために被害者を犠牲にして,自己の利益のために行うものである>と定義している。さらに,分断支配説は,被支配的な諸集団・階層を互いに分断し,支配階層・集団の地位を安定化させ,特権を保持するために差別が利用されたとみる。部落差別では,とくにこの機能が大きかったとされた。すなわち,封建社会にあっては百姓の過酷な年貢収奪のために<上みて暮らすな,下みて暮らせ>と不満を鎮めるために差別が利用され,近代社会にあっては,部落の人々を慢性的失業状態に押しとどめることにより,労働者一般の低賃金の鎮め石としての役割として部落差別が使われたとする考え方である。差別の搾取機能や民衆分断機能は,いずれも支配的階級(資本家階級)の階級的利益の追求のためのものである。一方,E.ボナセッチは「分断された労働市場論」で,資本家と労働者の階級対立という図式からではなく,労働者階級内部にみられる人種的ないしエスニックな対立という現実から差別を説明した。すなわち差別は組織労働者(白人労働者)が潜在的な競争相手(黒人労働者)を排除し,自らを有利な立場におくために,人種的な障壁を維持させているとし,必ずしも差別は資本家の利益になるとは限らないとみた。さらに,差別には秩序維持機能がある。異質なもの(と見なされたもの)を排除・攻撃することによって,内部対立や葛藤から目をそらせ,フラストレーションを解消し,支配的な価値を確認し,社会への同調・統合をはかるのである。また,文化・イデオロギーが差別を存続させるという側面もある。部落差別は、貴賤観念や家柄・血筋といった伝統的な観念,浄穢観などの非合理的な価値観や感情によって支えられている。非合理的態度という点では偏見と似ているが,偏見は対象集団に対する硬直化した感情的態度であり,一種の<異常な>人が差別を行なうが,文化が差別を生むという見方からすれば,逆に,その社会の支配的価値観や秩序意識を身につけた<優等生タイプ>の人が差別を行なうことになる。いずれの見方をとるにせよ,社会的差別は,力関係のアンバランスから生み出されたものであり,個人レベルではなく,社会関係や社会システムの問題としてとらえる視点が重要である。

*差別意識

参考文献

  • Oliver C.Cox, Caste,Class & Race(1948)
  • Edna Bonacich,"A Theory of Ethnic Antagonism:The Split Labor Market"(American Sociological Review,Vol.37-5,1972)
  • Joe R.Feagin and Clairece B.Feagin,Discrimination American Style:institutional racism and sexism,2nd ed.(1986)
  • アルベール・メンミ『人種差別』(法政大学出版局,1996)
  • 同『差別の構造』(白井成雄・菊地昌実訳,合同出版,1971)
(野口道彦)

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Last-modified: 2015-12-03 (木) 21:09:42 (1467d)