差別意識【さべついしき】

 差別が,個人または複数の個人を,その個人の特性よりはむしろその集団成員性を根拠にして否定的に処遇することであるのに対し,差別意識(*偏見【へんけん】)は一定の集団についての否定的な信念や感情を意味する。それゆえ差別意識(偏見)は,特定集団に対する差別を正当化し強化する方向で作動する。

 アルベール・メンミは,差別主義【さべつしゅぎ】を〈現実上の,あるいは架空の差異に普遍的、決定的な価値づけをすることであり,この価値づけは,告発者が己れの特権や攻撃を正当化するために,被害者の犠牲をも顧みず己れの利益を目的として行なうものである〉と定義した。つまり,差別意識とは,差別者が自己に与える免罪符なのである。このことは,差別者にとっての〈差異〉の位置づけのあいまいさによっても証明される。人種差別主義者が異なる肌の色に着目しながら,なにゆえに異なる目の色には着目しないのかを説明できる論理は存在しないのである。差異の選択自体が差別者の恣意にゆだねられ,そこにはなんらの法則性もない。そこにあるのは,差異に価値づけをする側とされる側との間に存在する権力・権威の不均等配分だけであり,差別意識がその不均等性を人々に自明視させるのである。

 差別意識(偏見)の起因としては,一般に〈過度のカテゴリー化〉が挙げられる。わずかばかりの事実が与えられた場合の針小棒大な一般化がそれにあたるが,そのなかでも〈*ステレオタイプ〉の心理機制が有名。ステレオタイプとは,ある特定の対象に関して当該社会集団の中で広く受容され,単純化・固定化されている観念やイメージであり,それはおおむね好悪・善悪の感情的な評価を伴っている。黒人,女性,障害者,被差別部落民等々の集団に対して,その集団に属する個人の独自性とは無関係にステレオタイプが形成されており,その意味で差別意識(偏見)は,人間の相互理解を阻む障壁として機能する。ひとたびステレオタイプが形成されると,そのステレオタイプを根拠にスケープゴーティング(身がわり集団の設定)が行なわれることもある。有名な〈欲求不満→攻撃〉の心理学仮説でいえば,たとえば公衆の面前で叱責された子が,それを全然無関係の子に譲り渡して自己の心理的安定をはかる場合がそれにあたる。選択される*スケープゴートに法則性はないが,なんらかの意味での弱者であることが多く,すでに成立している弱者にまつわるステレオタイプが免罪符として利用される。

 差別意識(偏見)の取得について,心理学者G.W.オルポートは,‘営粥き⊆匆餡宗き8綰の学習の3点を指摘している。同調【どうちょう】とは,すでに偏見をもっている世間に調子を合わせ,理想主義的なうるさがたになるよりは風習の随順者であることを選択する態度を意味する。社会化【しゃかいか】とは,社会の文化的社会的価値観を内面化する過程で取得していくことをいう。後年の学習【こうねんのがくしゅう】も社会化の一種だが,自己の利益にかなうかたちで偏見を取得する点で社会化一般よりもやや意識的であるといえる。

 オルポートは原則として差別意識(偏見)が差別を生み出す(偏見起因型差別)と考えているが,社会学者R.K.マートンは差別意識(偏見)と差別とが調和的であることもあれば非調和的であることもあるとし,偏見起因型差別のほかに差別起因型偏見もありうるとみなしている。つまり,差別意識(偏見)がなくても人間は他者を差別することがあるというのである。憎んでもいない他者を差別するとき,だれかがわれわれにそうさせようとしていると感じ,差別によって利益(友人を獲得する,優越感を感じる,賃金を搾取するなど)を得ると感じるわけで,その点ではオルポートのいう〈同調〉にも関連してくる可能性がある。

 差別意識(偏見)是正のプログラム【さべついしきぜせいのぷろぐらむ】として,オルポートは人格構造的変容(文化交流教育,児童のしつけ,勧告など)と、社会構造的変革(立法化,住居改善,行政命令など)の2本柱を提案している。前者の目的は、/祐峇愀犬硫善をはかること,∈絞粍媼韻了ち主に,自らの偏見を恥じ入らせること,集団の歴史や特徴や,偏見の本質についての科学的知識を与えること(それらによって,少数者の確信の支えになる,態度と知識が統合され寛容な人を勇気づける,頑固者のこじつけを叩くなどの効果が出る),っ亮韻里澆覆蕕此な亳をなくす具体的行動を提起すること,ゴ荼納圓砲魯泪鵐帖璽泪鵑領彎嘉指導を行なうことなどがある。また,後者については,(亳を直接攻撃するよりも隔離や差別といった偏見を生むものを攻撃する,⊂数者(被差別者)が居住や経済的機会において地歩を固めるような政策を執行すること,少数者(被差別者)を公職につけるなど,職業・教育などの基本線を保障すること,て争的改革者の役割を重視することなどが挙げられる。日本の部落問題についての是正プログラムもおおむねオルポートの提案の路線に従って進められてきたが,いわゆる社会構造的変革の局面はともかく,人格構造的変容の取り組みについてはなお多くの問題点を残しているといわざるをえず,学校教育および社会教育における人権教育の充実が望まれる。

*偏見

参考文献

  • A.メンミ『差別の構造』(白井成雄・菊池昌実訳,合同出版,1971)
  • G.W.オルポート『偏見の心理』(原谷達夫・野村昭訳,培風館,1961)
(八木晃介)

トップ   差分 リロード   一覧 単語検索 最終更新   ヘルプ   最終更新のRSS
Last-modified: 2015-12-03 (木) 21:09:42 (1295d)