死刑制度【しけいせいど】

 事実上の死刑廃止国は世界105カ国(過去10年以上執行していない国を含む,アムネスティ・インターナショナル調べ,1999)で,死刑存置国90カ国を上回っている。わけても,いわゆる工業先進国のなかでは,アメリカと日本だけが存置国である。アメリカは,州によって異なる(廃止12州,存置37州,存置州のうち12州は事実上執行していない)が,連邦刑務所ではここ20数年来執行していない。つまりアメリカ政府は事実上の死刑廃止をしている。この意味では,先進国では,いまや日本が唯一の死刑存置国であるといえる。1989年に国連で採択された*死刑廃止条約【しけいはいしじょうやく】は,99年現在40カ国が批准しているが,82年に採択された欧州死刑廃止条約【おうしゅうしけいはいしじょうやく】は,欧州議会への加盟の条件として同条約の批准を求めており,99年ロシアも死刑を廃止した。このように死刑は,国際的協力のもとで廃止へと向かっている。

 日本では,89年(平成1)11月から93年3月までの約3年4カ月間にわたって,死刑執行が中断されていたが,後藤田法相が死刑執行を再開して以来,99年11月までのほぼ7年間に34人が執行された(年平均5人)。98年11月,国連の*自由権規約委員会は,日本政府に対し,死刑廃止をめざした措置をとるよう勧告したが,日本政府は,国民世論の多数が死刑存置を希望しているとの理由で,この勧告を無視している。これに対して同委員会は,<世論に追従するのではなく,世論を死刑廃止に仕向けるべきである>と指摘した。現行法では,死刑に次ぐ重い刑は無期懲役であるが,10年を経過すると*仮出獄が可能であり(刑法28条),死刑との差が大きいので,死刑に代替する制度として終身刑を採用すべきであるとの議論が出されている。加害者を処刑するのでは,実質的に犯罪被害者の贖罪にならないとの批判もあり,終身刑の採用により被害者への弁償の機会も残り,有効であるとの考えもある。

 死刑存置の他の理由として,<死刑がなくなると凶悪犯罪が増える>といわれるが,アメリカでは死刑存置州と廃止州があり,死刑の有無と凶悪犯罪の増減との関連は証明されていない。凶悪犯罪の増減は,むしろ景気変動に大きな関係があるといわれている。いずれにしても犯罪を抑止するために国家が殺人を犯すことが正当化されてはならない。また被害者のため死刑が必要であるという意見もあるが,相手が処刑されたことで遺族の感情が満たされるほど単純ではない。むしろ死刑があることによって,被害者への国家補償が十分になされていないとの指摘がある。

 国家が合法的に人を殺すのは,戦争と死刑だけである。憲法9条により戦争を放棄した日本は,本来ならば世界に先駆けて死刑を廃止すべきである。日本政府が言うところの死刑の存置理由はいずれも合理性がない。

参考文献

  • 団藤重光『死刑廃止論 第5版』(有斐閣,1997)
  • 菊田幸一『新版 死刑――その虚構と不条理』(明石書店,1999)
  • アムネスティ・インターナショナル日本支部編著『知っていますか? 死刑と人権 一問一答』(解放出版社,1999)
(菊田幸一)

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Last-modified: 2015-12-03 (木) 21:09:44 (1417d)