職業差別【しょくぎょうさべつ】

 社会の支配的な価値観に基づいて、ある特定の職業群が社会の人々から忌避され、その職業の従事者が極端にさげすまれ排除される事態をいう。職業差別と職業格差とは互いに密接に関連しているが、両者を同一視することはできない。職業格差は、職業上の処遇条件と評価の連続面において不平等な階層が認められる事態を指す。一方の職業差別は、ある特定の職業またはその従事者が、そのような職業階層の順位において単に最下層にあるだけではなく、むしろ社会の構成員から極度に蔑視ないし忌避されて、その評価実質において断絶的なかたちで疎隔されている事態を意味している。

〈部落差別との関連〉

 建前としては、〈職業に貴賤なし〉といわれながら、実際には社会の人々の心の中に、このように高貴・高級と卑賤・低級といった職業評価の違いがあるだけでなく、ある特定の職業群ないしその従事者に対して根強い嫌悪感や忌避感が抱かれていることが多い。この職業差別意識は、単なる身分的な貴賤を超えたカースト的な浄穢観念に根ざしている。その意味では、職業差別は*部落差別と密接に関連しているとはいえる。しかしこれには重大な誤解がつきまといやすく、慎重な考察が必要である。というのは世間では、〈部落民は、人々から嫌われている職業に従事しているから、差別される〉という誤った言説(部落差別の職業起源説【しょくぎょうきげんせつ】)がまかり通っているからである。基本的な事実関係はまったく逆で、ある時代の社会で部落民がむごい差別を受け続けるなかで、生き抜く手段としてやむなく他の社会人から忌み嫌われている職業に従事せざるをえなかったか、あるいは権力によって強制的に従事させられてきたという発生事情があった。むろん部落民が従事することでその職業に対する忌避感がさらに強まるという逆方向の影響はあったにせよ、基本的な規定関係としては、支配権力により社会的に醸成された部落差別の基本観念がまずあって、それに基づいて職業の差別的な配分体系が構成されていったという事実関連を正確に見ぬかなくてはならない。

〈具体的局面とその克服〉

 このような事情から、〈部落民〉が従事せざるをえなかった職業群には、基本的に死穢や*ケガレの観念がからみついていて、広い意味では〈*清目〉の仕事と深く関連している。歴史的には、埋葬、刑吏、医者、*斃牛馬処理業、汚物処理業、わら細工業などが〈不浄な仕事〉と目された。近代日本ではその関連から、実態としては被差別部落との関連性が弱まっているにもかかわらず、火葬業、葬儀業、*と畜業、食肉処理業、*清掃業、廃品処理業、*土木・建築業などに対しては部落差別に裏打ちされた根強い職業差別が、隠然としたかたちで横行している。社会的に基礎的な重要性をもつこれらの諸職業の意義が再認識されて、真の職業平等がめざされるべきことは改めていうまでもない。  

参考文献

  • 八木正「職業差別問題へのアプローチ」(『金沢大学教養部論集・人文科学篇』23-2,1986)
  • 同「日本の食肉産業における雇用形態と労働の実状」(大阪市立大学同和問題研究会『同和問題研究』17号,1995)
  • 同「〈縁辺労働力〉概念と労働者間差別の問題――日本建設業の労務機構と労働状況に即して」(日本労働社会学会年報2『日本の労働者像』時潮社、1991)
  • 押川文子編『フィールドからの現状報告』(明石書店、1995)
(八木 正)

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Last-modified: 2015-12-03 (木) 21:09:47 (1417d)