身分と階級【みぶんとかいきゅう】

 一般的には身分も階級も,一定の社会体制内に占める個人や集団の位置を意味する。その位置は社会的勢力(権力・富力・威信)の配分によって決定されるが,社会的勢力自体はおおむね各時代の生産力の発展段階を基軸とした社会構造によって決まる。広義の階級には,閉鎖的階級としてのカースト(古代的)や身分(中・近世的),さらには開放的階級としての近代的階級(狭義の階級)も含まれる。カーストや身分を〈閉鎖的〉というのは,それらが宗教的・政治的な理由や社会的評価といった経済外的な強制(法制的もしくは因襲的強制)によって,職業・居住・通婚などが制限され,相互に閉鎖的(このような閉鎖的条件のうえに成り立つ社会的地位を,狭義の身分=帰属的地位ないし属性的地位と呼ぶ)であったためであり,一方,近代的階級を〈開放的〉と呼ぶのは,資本主義経済が自由に移動可能な労働力を必要とするところから,土地への緊縛,職業の世襲,血統や家柄といった生得条件を打破し,階級関係を流動化し,開放化するためである。

 マルクス主義階級論においては階級が基底概念であり,カーストや身分は階級の法制的表現とされ,〈身分は階級の政治的外被〉(マルクス)とみなされる。すなわち,生産手段の所有・非所有が階級を決定し,生産手段を所有して経済的実権を掌握した者が支配階級として社会的勢力を媒介としつつ政治的にも優位に立つ。ここにおいて,搾取・被搾取(財の配分の不平等),支配・被支配(権力の配分の不平等)を基軸とした階級関係が成立する。搾取・支配の社会的地位を獲得した階級は,その地位の永続化を目的として,被搾取・被支配階級に対する分断支配をめざし,そのための身分制の政策を生み出し,温存・維持・強化・固定化する。それがカースト制度であり,身分制度である。

 したがって,身分制の分析にあたっては,階級関係の考察を第一義的としなければならないが,同時に,地域共同体における人的結合原理についての伝統的観念,文化習俗や貴賤・浄穢観念などの広汎な流布状況といった民衆側の要因も看過されるべきではない。この点については,社会学(主にアメリカ社会学)における成層理論【せいそうりろん】も一定の有効性をもつ。ここでは,階級classではなく,階層【かいそう】stratumの概念が用いられる。すなわち,社会の生産体制における人々の生産手段に対する所有関係という客観的・物質的基盤ではなく,職業・収入・学歴・家柄・財産・生活様式などの主観的指標に着目しつつ,人々を社会的威信によって格付けされた社会的地位の序列集団とみなすのが階層(成層)理論である。マルクス主義における階級が対立的存在であるのに対して,階層は尊敬・羨望・蔑視を媒介とした段階的・相対的な概念であり,その意味では,前者が政治的・経済的概念であるのに対し,後者を社会的・文化的概念ということもできる。身分と階級の関係を考える場合,階級概念を第一義的としつつ,同時に階層概念をも考慮に入れることにより,階級把握それ自体が豊富化されるのみならず,身分制成立の社会的機序をも過不足なくとらえることができると思われる。ところで,身分が制度化・法制化された社会が身分制社会である。歴史的にはインドを中心とするカースト社会,中世ヨーロッパの封建社会(第1身分=国王・封建領主,第2身分=貴族・僧侶,第3身分=農民・手工業者・商人),日本の近世社会(士・農・工・商・賤)などが身分制差別社会の典型である。

 日本の部落問題が,古代律令制以降の身分制の系譜を引き,より直接的には近世社会における身分差別制に端を発するものであること,しかも近代以降も解決されなかった問題であることは周知の事実である。そこで問題となるのが,部落問題の分析概念として,身分概念か階級概念か,そのいずれが決定的に重要であるかという点である。部落問題の規定要因を身分に求めれば,現代部落問題は〈*封建遺制【ほうけんいせい】〉となるが,階級に規定要因を求めれば必ずしも〈封建遺制〉とは考えられず,現代階級関係に組み込まれた問題となり,したがって,部落解放運動の実践的課題(差別の元凶は何か)も当然異なってくるからである。すでにみたように,身分と階級とは,元来,次元の異なる概念であるが,前近代にあっては両者がしばしば重複しており,それゆえ,両者の関係は〈身分は階級の法制的表現である〉と定義できたのであった。ただし,近代以降も身分が消滅するとは限らない。たとえば,日本の天皇制,英国などの国王制をはじめとする身分制も温存されており,このことは現代の階級的支配といえども,必要とあれば身分差別を利用するという事実を示唆するものであるといってよい。そこで,今日の部落解放理論は,必然的に,身分と階級の弁証法的統一把握をめざさざるを得ない。封建的身分制に歴史的起源をもつ部落差別が,資本主義的階級関係に組み込まれて現在に至った問題と把握し,階級論を基底におきつつ,しかも階級一元化に陥らない理論を,部落の実態と差別の現実のなかから構築しつつあるといえる。

(八木晃介)

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Last-modified: 2015-12-03 (木) 21:09:47 (1417d)