人権擁護【じんけんようご】

〈人権の尊重・擁護と人権擁護機関〉

 *日本国憲法は<日本国民に保障する基本的人権は,人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であって,これらの権利は,過去幾多の試練に堪へ,現在及び将来の国民に対し,侵すことのできない永久の権利として信託されたものである>(97条),<国民の不断の努力によって,これを保持しなければならない>(12条)としたうえで,憲法を運用する任にある公務員は積極的に尊重・擁護しなければならない(99条)と規定している。この憲法の人権尊重・擁護の理念に従って人権擁護機関【じんけんようごきかん】が誕生した。

 国の機関としては法務省人権擁護局がある。1947年(昭和22)12月に法務庁が設置され,その内部部局として設けられたことに始まる。その後,法務庁は法務府を経て、52年8月、法務省となり,人権擁護局もその組織を順次手直しして現在の機構になった。人権擁護機関の仕組みは,狭義には法務局,地方法務局があり,人権擁護を国の業務として担当するとともに,広義には補完的立場においてこれと役割分担をする全国1万3662人(1997.1.1現在)の*人権擁護委員【じんけんようごいいん】およびその組織体(協議会,連合会,全国連合会)を包含するかたちで存在している(人権擁護委員法)。このようにわが国の人権擁護機関は民間人による自主的な活動によって支えられており,わが国独特のものといえよう。

〈人権擁護活動〉

 人権擁護機関による人権保障は,人権相談【じんけんそうだん】および人権侵犯事件【じんけんしんぱんじけん】の調査・処理に大別され,その他講演会,ポスター掲示,パンフレットなど印刷物の配布,新聞,放送による人権思想の普及高揚がある。毎年12月4日から10日までを*人権週間と定め,66年以来、年間を通じての啓発には<人権の共存>〈子どもの人権を守ろう〉などを重点目標に活動を続けている。

 人権相談は法務局などで常時開設される常設相談所,デパートなどで臨時に開設される特別相談所で行なうほか,人権擁護委員が自宅でも行なう。ここでは問題解決のための手続きの援助や,人権侵犯事件の調査手続きへの切り替え,関係官公署の紹介などを行なっている。人権侵犯事件の調査・処理にあたっては,人権擁護機関が関係者からの申し出を受理し,<人権侵犯事件調査処理規程>に基づいて侵害事実の有無を調査し,人権侵犯を行なったと認められる者に対して告発したり,必要な勧告を行ない,被害者には助言などの援助を行ない,関係者に斡旋その他人権侵犯を排除するための措置をとる。私人による人権侵犯には,家族間における酷使・虐待,私的制裁,村八分,報道機関による名誉・信用に対する侵犯,相隣者間における住居の安全に対する侵犯,公害,部落差別などがある。公務員による人権侵犯の事例としては,警察官,教育職員,刑務職員によるものが多い。人権擁護機関ではいじめ,体罰,*不登校など子どもの人権問題に対処するため,人権擁護委員のなかから指名して<子ども人権専門委員【こどもじんけんせんもんいいん】>を設けている。また朝鮮人学校児童・生徒に対する嫌がらせ,暴行事件に対応するため相談窓口を広げている。

〈民間の人権擁護組織〉

 民間の人権擁護組織として,*自由人権協会【じゆうじんけんきょうかい】と*日本弁護士連合会人権擁護委員会【にほんべんごしれんごうかいじんけんようごいいんかい】がある。自由人権協会は1947年(昭和22)に人権の擁護と伸長を目的に設立されたわが国最初の全国的民間組織で,法曹界,学界と並んで部落解放運動から松本治一郎らが名を連ねていた。協会内部に情報公開、外国人の権利、マスメディアなどのテーマで研究活動を行なう小委員会を設け、意見を表明したり、人権法律相談や出版活動などに取り組んでいる。日弁連の人権擁護委員会は49年に発足,人権侵犯事件の調査と被害者の救済,官公署に対する警告,処分または処分の取り消しの請求,問責手段の行使などを主な任務としている。

〈部落問題の取り組み〉

 部落差別が,憲法で保障する基本的人権にかかわる課題であることはいうまでもない。政府各省が人権行政の一環として同和対策事業に取り組んだ結果,環境対策はある程度進展をみたものの,ねたみ意識が表面化しているほか,根強い心理的差別が残っている。近時,差別事件は複雑高度化し,陰湿・悪質化する一方で,差別の被害者が法務局などの人権擁護機関を敬遠し,あてにしていないという実態が報告されている。人権擁護機関の設置から約半世紀を経た今日,この制度の形骸化,機能の不全が各方面から問い直され,国会でも取り上げられている。現行の人権擁護機関の権限は情報,認知,事実の任意調査と説示,勧告といった任意処分にとどまっており,被害者申告制度のもつ弱点,強制権の欠如,事後処分的説示,困難事案の処理の限界など,制度と運用において実効性に多くを期待できないものとなっている。悪質な人権侵害行為には,これを停止させる強制力が必要となるが,それも現行の非権力的な啓発機関では行政側の説得を無視する者に効果的対処は望み難い。今日,国連では加盟各国に対し、人権の促進と擁護に関する国内機関の設置を求めており,これに呼応してわが国でも*国内人権機関【こくないじんけんきかん】の再検討や,より迅速・適切な人権侵害救済処理制度の創設を求める声が高まっている。

〈人権オンブズパーソンとしての人権委員会〉

 新たな国内人権機関の設置については,法務省に設けられている人権擁護推進審議会において審議が進められている。人権侵犯事件の被害者救済に的確・迅速に対応できる泣き寝入り防止策として,国や自治体(都道府県)に人権オンブズパーソンとしての人権委員会を設置することが考えられる。オンブズパーソン制度については,行政監察の面ですでに伝統的な議会オンブズ制度があるが,今日では消費者,公害,医療行政などの個別の分野に多様な制度が発展している。立法論として,これを社会的差別をめぐる苦情処理機関に拡大し,国民または地域住民の代表の自覚をもった人権(差別)オンブズパーソンによる職務上の独立性と独自の調査権に裏打ちされた差別苦情の救済処理機関とすることが考えられる。

参考文献

  • 宮崎繁樹『世界の人権と同和問題』(明石書店,1996)
  • 高野真澄『新たな人権擁護制度を求めて』(解放出版社,1996)
  • 国連人権センター編『国内人権機関』(マイノリティ研究会訳,マイノリティ研究会、1997)
(睫鈞胆 

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Last-modified: 2015-12-03 (木) 21:09:48 (1294d)