天賦人権論【てんぷじんけんろん】

 すべての人間は生まれながらにして平等であり,幸福追求の権利があるとする説。欧米の自然権思想が摂取され日本化されたもので,明治前期に圧倒的な影響力をもった。*福沢諭吉【ふくざわゆきち】『学問のすゝめ』(1872),*加藤弘之【かとうひろゆき】『真政大意』(1870)など,明治初期の啓蒙思想家たちによって唱えられ,のち自由民権思想家の*植木枝盛『天賦人権弁』(1883),馬場辰猪『天賦人権論』(1883)らによって深められた。

 天賦人権論は,封建的身分制を批判し,そこから人々を解放する議論として大きな意義をもったが,それはしばしば〈文明人〉(または男性)にのみ適用されるものとして展開され,近代的差別の論理を生むことにもなった。また歴史的な検討を欠いたため,現実変革の方法を生むのに弱かった。しかも1880年代からの社会ダーウィニズムの流入は,加藤弘之の転向と『人権新説』【じんけんしんせつ】の刊行(1882)にみられるように,社会有機体説や優勝劣敗論を生み,それらによる新たな差別の論理が拡大することとなった。これらを批判したのが植木や馬場ら自由民権派であったが,彼らも資本主義文明の矛盾そのものを問題にすることができず,運動の衰退とともに後退していった。

参考文献

  • ひろたまさき「日本近代社会の差別構造」(『差別の諸相』岩波書店,1990)
  • 明治文化研究会編『明治文化全集』2巻 自由民権篇(日本評論社,1967)
(ひろたまさき)

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Last-modified: 2015-12-03 (木) 21:09:51 (1469d)