同化【どうか】

 異なる複数の文化(その文化を担う集団)が接触し,一つのものになっていく過程。多くの場合,接触する二つ以上の文化(集団)の関係は,どちらかが強い(ドミナントあるいはマジョリティ)。結果として,より弱いものが,より強いものに合わせ吸収されるケースがほとんどである。日本の事例としては,明治政府以来のアイヌ民族に対する〈同化政策【どうかせいさく】〉がその典型的ケースである。

 アメリカの人種問題・民族問題に関する研究の多くは,この〈同化〉概念に基づく。代表的理論としては,J.M.インガーの文化的,心理的,社会構造的,生物学的の4レベルでの同化の研究などがある。多くのマイノリティが,ドミナントなアメリカ文化に同化していくプロセスが中心テーマだったからである。

 日本の部落問題に関しては,行政的には同化政策がとられてきた経緯はあるが,運動的にも,研究のうえでも,中心テーマにはならなかった。同化政策は,一般に,*融和主義【ゆうわしゅぎ】と総称されてきた。融和主義は,マイノリティである被差別部落住民を、マジョリティである部落外住民に同化させることを目的とした思想,態度,行為を意味する。融和主義の最大の問題は,価値(文化)の問題である。被差別部落住民の価値を一般社会(既存)の価値に同化させるということは,現状のマジョリティの価値観(支配的文化【しはいてきぶんか】)が〈差別を容認する〉方向で形成されている以上,被差別部落住民がこの価値観(支配的文化)に同化するということは,自己否定につながりかねない。支配的文化では,〈差別はいけません〉という価値までは承認してきた。しかし,〈差別を許さない〉という価値は,現状ではまだ社会的に承認されていない。全国各地にみられる多くの*結婚差別の事例をみれば,歴然としている。

 解放運動は,〈差別を許さない〉という価値を掲げて,支配的文化に闘いを挑み,対抗文化【たいこうぶんか】の創造に向かう。つまりマジョリティの価値(支配的文化)への同化を許さない運動である。〈ひと〉としての〈誇り〉にかかわるからである。多くの部落住民は,この支配的文化と対抗文化との狭間で葛藤している。とくに,解放運動の存在しない,あるいは弱い地域の部落住民の多くは,支配的文化に同化して(同化するふりをして)生きている。いわゆる〈*寝た子を起こすな論〉に支配される状況である。解放運動の支部がある地域でさえも,同様の意見を聞かされることがある。このような地域の住民は,〈差別を容認する〉支配的文化を心から受容しているのではない。受容しないと生きていけない事情(差別の厳しさ)を抱えているからである。当然,彼らの心理的葛藤は深い。支配的文化と対抗文化の両極の価値に引き裂かれたアンビバレントな感情による。部落問題に関する同化政策は,問題解決の役に立たないどころか,文化的,心理的不安定をもたらす。

参考文献

  • 江嶋修作「文化的不安定」(『地区実態の現状と課題』庄原市・解放社会学研究所,1993)
(江嶋修作)

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Last-modified: 2015-12-03 (木) 21:09:52 (1294d)