日系企業雇用差別【にっけいきぎょうこようさべつ】

〈反差別法の遵守求めた最高裁判決〉

 在米日本企業の雇用差別問題は,1970年代から注目されている。当初の問題でもっともよく知られているのは,ニューヨークの住友商事の女性差別とヒューストンの伊藤忠の人種差別に関する訴訟【じんしゅさべつにかんするそしょう】である。ともに公民権法第7編(通称、タイトルァ)などの雇用差別を禁止した法律に違反する行為があったとされ、82年に連邦最高裁は、二つの裁判を合わせて判断を示すに至った。両社は53年の日米友好通商航海条約の保護を受ける日本企業で、タイトルァに拘束される必要はないと主張。しかし、最高裁は、アメリカで現地法人化した両社を米国企業と規定、タイトルァに従うべきだとした。二つの裁判は、それぞれ別個に下級審に差し戻され、審理が行なわれた。伊藤忠の和解内容は公表されていない。住友商事は87年、―性の現・元従業員1200人に100万ドルを支払う、⊇性従業員の職業訓練に100万ドルを支出する、女性従業員の管理職昇進への報奨金として37万ドルを支出する、などの内容の和解に合意した。

〈対米進出の増大と議会の公聴会〉

 1980年代に入ると、貿易摩擦を回避するためと円高により、日本企業の対米進出が増大した。これに伴い、在米日本企業の雇用差別も増加した。とくに注目されたのは、オハイオ州のホンダに対する*アメリカ雇用機会均等委員会【あめりかこようきかいきんとういいんかい】(EEOC)の調査である。40歳以上の中高年齢者や女性、黒人への雇用差別があったかどうか調査されたもので、年齢差別については87年に45万ドル、女性や黒人への差別については88年に600万ドルを支払い、EEOCと和解した。91年6月3日付のニューヨーク・タイムズは、〈アメリカ人管理職、日本企業から差別されると主張〉という見出しの記事を掲載。この記事がきっかけになり、連邦下院の小委員会は、91年7月から数回にわたって、全米各地で公聴会を開催し、リコー、トヨタ、住友商事、NECなどが非難にさらされた。

〈米国三菱のセクハラ訴訟の衝撃〉

 下院の公聴会以降、在米日本企業の雇用差別問題はあまり注目されなくなった。だが、96年4月、イリノイ州の米国三菱自動車製造で*セクシュアル・ハラスメントがまん延しているとして、EEOCが連邦地裁に提訴。女性議員や女性団体、公民権団体などが米国三菱を厳しく批判した。また、全米女性機構(NOW)の副会長が訪日、三菱自工の株主総会の会場前で抗議活動を展開。米国三菱は、元労働長官のリン・マーチンによる職場改善案を発表するなど、事態の収拾に努めた。EEOCとは別に、94年12月、29人の女性従業員がセクシュアル・ハラスメントを受けたとして民事訴訟を起こしていた。97年8月、米国三菱は、このうち27人の女性に総額950万ドルを支払い和解。EEOCとの訴訟も98年6月、三菱側が3400万ドルを支払い和解した。なお、日本在外企業協会の調査によると、この問題を契機に、日本企業の多くが、セクシュアル・ハラスメント対策を真剣に考えるようになった。

参考文献

  • 矢部武『日本企業は「差別」する!』(ダイヤモンド社、1991)
  • 柏木宏『米国の雇用平等法と在米日本企業の対応』(日本太平洋資料ネットワーク、1992)
  • 同『企業経営と人権』(解放出版社、1993)
  • 日本太平洋資料ネットワーク編『GAIN:第18号 セクシュアル・ハラスメント特集号』(1996)
  • 柏木宏『アメリカにおけるセクシュアル・ハラスメント』(解放出版社、1999)
(柏木 宏)

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Last-modified: 2015-12-03 (木) 21:09:53 (1294d)