博物館【はくぶつかん】

人権博物館

人権資料・展示全国ネットワーク

 被差別部落、女性、在日コリアン、アイヌ民族、沖縄、障害者などに対する日本の社会的差別に関する資料を収集・保存し、展示公開することによって、人権思想の普及を目的とした博物館・資料館などの総称。学習院大学から返還された被差別部落に関する文書を中心に展示公開した1973年(昭和48)設立の長野県の五郎兵衛記念館が、人権博物館の先駆をなしている。部落問題を中心に歴史展示を行なった85年設立の大阪人権歴史資料館(現*大阪人権博物館【おおさかじんけんはくぶつかん】)をもって、人権博物館の本格的な登場となる。この大阪人権歴史資料館の設立と部落解放運動や行政などが行なう人権展運動のなかから、部落差別を中心としつつ人権への広がりをもち、また平和のために戦争をも対象にした人権博物館として88年に堺市立平和と人権資料室(現堺市立平和と人権資料館)、94年(平成6)に福山市人権平和資料館が設立された。88年に堺市の被差別部落内に設立された堺市立舳松歴史資料館は地域に密着した歴史展示を行ない、93年設立の奈良県立同和問題関係史料センターは史料の収集・保存を軸に展示事業も行なっている。94年には広島県のジミー・カーターシビックセンターと京都市の楽只隣保館資料室、96年には三重県人権センター、福岡県の碓井町立碓井平和祈念館、福岡県人権啓発情報センターが設立され、人権に関する常設展示を行なうようになった。86年設立の広島県のたかみや人権会館、89年設立の大阪府の貝塚市郷土資料室、96年設立の広島県の三次市平和人権センター、97年設立の堺市の平和人権子どもセンターでは、随時、人権に関する展示などを行なっている。97年には京都市に柳原銀行記念資料館が設立され、98年には水平社運動に関する専門博物館として水平社発祥の地である奈良県御所市柏原に水平社歴史館(現*水平社博物館【すいへいしゃはくぶつかん】)が設立された。

 在日コリアン関係では大阪市に84年設立の青丘文化ホール、京都府京北町に89年設立の丹波マンガン記念館などがあり、アイヌ民族関係では北海道に92年設立の平取町立二風谷アイヌ文化博物館などがある。公害関係では、熊本県水俣市に88年設立の水俣病歴史考証館などがある。99年には〈薬害エイズ〉の遺族らによって,奈良県生駒市にエイズ資料館が開設された。

 人権に関する博物館活動は、人権博物館のみにとどまらず、歴史系博物館にも広がっている。93年から千葉県の国立歴史民俗博物館では常設展示で被差別部落や在日コリアン、アイヌ民族、女性をめぐる差別を取り上げ、江戸東京博物館では部落の歴史にかかわる重要な問題を常設展示に組み込み、94年には,徳島県立博物館では部落の歴史の特別展を初めて行なった。このような人権に関する資料の収集・保存、展示の取り組みの広がりのなかで、大阪人権博物館、水平社博物館、福山市人権平和資料館の呼びかけにより、96年に人権資料・展示全国ネットワーク(略称・人権ネット【じんけんねっと】)が設立された。2000年8月現在、30機関・団体が加盟し、年1回の総会と年4回のニュース発行などを行ない、親睦と交流をはかっている。

(朝治 武)

[平和博物館]

 日本の平和博物館【へいわはくぶつかん】は,戦争の悲惨さを伝え,平和の尊さを考えるという趣旨でつくられたものが多い。これは,悲惨な戦争体験を忘れない,二度と戦争を繰り返さないという戦争否定の国民感情からくるものである。その意味で戦前・戦中のような,戦争を賛美し,軍隊の活躍をたたえるような戦争資料館は主流となりえていない。

 平和博物館の最初は,1949年(昭和24)に開館した広島平和記念資料館(前身・原爆資料陳列室)と55年に開館した長崎国際文化会館の二つの原爆資料館である。沖縄戦関係の博物館には,沖縄県立平和祈念資料館,ひめゆり平和祈念資料館など,戦災関係では,仙台市戦災復興記念館(宮城),浜松復興記念館(静岡)などがある。

 その後,戦争体験が風化するとともに,空襲を記録する運動や平和のための戦争展運動が起こり,その発展として,総合的な平和博物館が1990年代に入って相次いで開館した。公立の平和博物館には大阪国際平和センター(愛称・ピースおおさか),川崎市平和館(神奈川),埼玉県平和資料館,吹田市平和祈念資料室(大阪),高松市市民文化センター平和記念室(香川),せたがや平和資料室(東京),姫路市平和資料館(兵庫),碓井平和祈念資料館(福岡),地球市民かながわプラザなどがある。また堺市平和と人権資料館(大阪)や福山市人権平和資料館(広島)のように、人権問題と同時に戦争と平和に関する展示も行なう博物館もつくられている。このなかで,広島・長崎の原爆資料館も改装し,長崎は長崎原爆資料館に改称したが,両館とも原爆のみでなく,その投下以前の戦争に関する展示も行なうようになった。公立以外では,私立大学が設置した立命館大学国際平和ミュージアム(京都)がある。このほか,平和資料館・草の家(高知),静岡平和資料センター,北九州平和資料館準備室(福岡),岡まさはる記念長崎平和資料館,平和人権子どもセンター(大阪)などのように,市民運動団体や個人が開設した博物館もある。民間だけでなく,ピースおおさかをはじめとする公立の平和博物館でも,日本人の被害のみでなく,加害もとりあげている。

 また,大久野島毒ガス資料館(広島)のように,戦争中の個別問題をとりあげたもの,基地反対闘争や復帰運動のヌチドゥタカラの家(沖縄)やビキニ水爆被爆事件の都立第五福竜丸展示館のように戦後の問題を対象とするもの,ナチスの戦争犯罪をとりあげたホロコースト記念館(広島)やアウシュヴィッツ平和博物館(栃木)もある。平和博物館の中には,原爆の図丸木美術館(埼玉),石垣記念館(和歌山),三良坂平和美術館(広島),佐喜真美術館(沖縄)などのように,丸木位里・俊,石垣栄太郎,柿手春三などの反戦の美術作品を展示したり,戦没画学生の遺作・遺品を展示する無言館(長野)などの平和美術館も含まれる。

 平和博物館は,学校教育とも連携し大きな役割を果たしているが,博物館として確立し,専門職を配置し,資料の整理・公開をはかるとともに,調査・研究機能を高め,その成果としての展示をすることなどが今後の課題である。

(山辺昌彦)

*大阪人権博物館*水平社博物館

参考文献

  • 歴史教育者協議会編『平和博物館・戦争資料館ガイドブック』(青木書店,1995)

添付ファイル: filehakubutsukan.jpg 1412件 [詳細]

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Last-modified: 2015-12-03 (木) 21:09:54 (1354d)