反差別立法【はんさべつりっぽう】

[インド]

 1950年に施行されたインド共和国憲法は,17条で不可触民制を廃止し不可触民【ふかしょくみん】差別を犯罪行為とみなすことを明記している。憲法のこの条文に実効をもたせるため55年に制定されたものが不可触民制〈犯罪〉法【ふかしょくみんせいはんざいほう】The Untouchability 〈Offence〉

 Actであり,全17条から成る。本法の中心となるのは,3条〈宗教的無資格強制の処罰〉,4条〈社会的無資格強制の処罰〉,5条〈病院等に入ることの拒否に対する処罰〉,6条〈商品の売却,サービス提供の拒否に対する処罰〉,7条〈不可触民制に起因するその他の犯罪に対する処罰〉であり,社会生活のすべての面における不可触民差別(旧不可触民は公的には指定カーストと呼ばれる)に対し,〈6月以下の投獄,あるいは,500ルピー以下の罰金に処し,またはこれを併科する〉ことが定められている。しかし,裁判の遅滞,示談の風潮,軽い量刑などのために,この法の目的は十分に達成されなかった。

 こうした状況を打開するため,76年に実効性と罰則強化を内容とする改正法が市民権保護法【しみんけんほごほう】The Protection of Civil Rights Actとして制定された。この改正法の〈市民権〉とは,憲法17条の不可触民制廃止によって生じた権利を意味している。改正法で注目される点は,量刑の下限と投獄・罰金の併科が定められたこと(1月以上6月以下の投獄,および100ルピー以上500ルピー以下の罰金),示談を禁じたこと,一部に略式裁判を認めて裁判のスピード化をはかったこと,違反行為の調査を故意に怠った公務員に教唆罪を適用したことなどである。また89年には,指定カースト・指定部族〈残虐行為防止〉法The Scheduled Castes and Scheduled Tribes〈Prevention of Atrocities〉Actが制定され,多くの州にこの法のための特別裁判所が設置されている。

(山崎元一)

[アメリカ]

 アメリカにおける反差別法は、1776年の独立直後から制定されてきた。奴隷の輸入や売買、白人以外の移民の帰化や先住民の市民権取得などに関するものである。公民権法と名づけられた法律も、19世紀から存在した。だが最初の本格的な反差別法は、1964年の公民権法【こうみんけんほう】といえよう。同法は、雇用、公共施設、教育における人種や膚の色、性別、出身地、宗教に基づく差別を禁止。翌年、選挙法と憲法修正24条が成立、黒人参政権が認められた。また、同年、アファーマティブ・アクション法が大統領行政命令として制定され、差別の積極的な解消がはかられるようになった。1970年代には、政府機関などにおける障害者差別を禁止した社会復帰法や、銀行の融資差別を禁止する地域社会再投資法が成立。さらに90年には雇用、通信、公共施設、交通における障害者への差別を禁止する〈障害をもつアメリカ人のための法律(ADA)〉の制定など、法律が扱う対象者や範囲が拡大されている。

(柏木 宏)

[イギリス]

 イギリスには,<人種関係法【じんしゅかんけいほう・いぎりす】Race Relations Act>(1965制定1968・1976改正)と<性差別禁止法Sex Discrimination Act>(1975)があるが,ここでは前者について概説する。ゞ愡澆気譴觝絞漫同法が禁止する差別は,皮膚の色・人種・国籍nationalityまたは種族的もしくは民族的出身など人種的事由racial groundに基づいて特定の人種集団に対して行なわれる差別であり,直接差別だけでなく間接差別も禁止している。∈絞姪映冓野:同法が差別撤廃をめざす分野は,雇用・教育・物品とサービスの提供および建物の処分と管理など広い社会生活に及んでいる。人種的憎悪扇動の処罰:人種集団を脅迫し侮辱する表現を用いた出版物の公布などは犯罪行為として処罰される。た夕鑛薪委員会:差別の撤廃と人種間の良好関係を促進し,調査と抑止措置により差別犠牲者を救済するために必要な機能と権限を有する実施機関として設置され,人権教育の任務も有する*国内人権機関である。

(金 東勲)

[フランス]

 1972年7月1日制定。民族・国民(国籍)・人種・宗教を理由とする差別に対して,〆絞漫ち悪,暴力扇動罪,誹謗罪,侮辱罪,8柩僉解雇、(公)役務提供の拒否または条件付提供の罪を設ける。77年からは,し从儚萋阿亮由の妨害の罪を導入。また結成後5年以上経過した人権闘争団体に対して公訴権を認めた。75年,の罪に関しては,その理由として性・続柄・家族状況を加え性差別禁止法ともなったが,表現に関する き△虜瓩砲弔い討論差別禁止の規定はない。の罪の理由には,さらに89年に身体の障害状態,90年に健康状態が加えられた。結社への公訴権の付与は実効性をあげ,83年に〈《人道に対する罪》・戦争犯罪と闘う団体〉へと拡大。85年には,有資格団体に対し,人種的差別要因がある殺人等暴力行為に対する公訴権も認めた。90年7月13日,同法は反人道罪との罪に対して〈公民権停止〉を命じることができるとし,さらに92年7月22日,同法は理由に出身・政治的意見・組合活動を付加するとともに,とい虜瓩砲弔い討蓮ぜ然人だけでなく法人にも適用すると定めた。

(林 瑞枝)

[ドイツ]

 “真夕錙奮姐饋諭忘絞未よび男女同権への動きを中心に解説する。〃沙罰を伴う措置として人種的憎悪の誘発行為等を禁じた刑法130条のほか,*ネオナチ等による〈アウシュヴィッツの虚構〉等の主張の公表は,告訴なくして名誉毀損罪を構成するとする刑法194条等がある。また憲法にあたる基本法9条2項および21条に基づき、今日まで複数のネオナチ極右政党が非合法化されている。近時の動きとして,ドイツ統一条約の家族と女性の保護に関する31条を受けて94年の基本法3条改正により男女の事実上の平等の達成がうたわれることとなり,同年〈女性と男性の同権化の実行のための法律〉が成立した。男女いずれかのみの採用募集の禁止規定,採用における不利益に関する損害賠償請求額の増額,育児等に従事する労働者の労働時間への配慮と代替労働力の活用等の他,女性オンブズパーソンの設置と女性援助計画の策定,*セクシュアルハラスメントの規制などを内容とする。

(戸田五郎)

[ニュージーランド]

 人種間の平等と融和をはかるため,1971年,英国の人種関係法に倣って〈人種関係法Race Relations Act〉を制定,77年には差別により人権を侵害された犠牲者を救済し保護するために,〈人権委員会法Human Rights Commission Act〉を制定した。その後93年になって,人権に関する国連の規約または条約に従って人権の保護をさらに向上させるために,これらの法律を改正・統合した〈人権法Human Rights Act〉を制定公布した。

 同法は,性,婚姻上の地位,宗教的信条,倫理的信条,皮膚の色および国籍もしくは市民権を含む種族的または民族的出身(ethnic or national origins),さらには障害に基づく差別を禁止し(21条),雇用・事業への参加,公の場所と乗り物および施設の利用,さらには商品と役務の提供,土地と住居の取引ならびに教育機関への参加など,広範囲にわたる社会生活上の差別の根絶をめざしている。こうした差別のほか,性的および人種的嫌がらせと間接的差別をも禁止している(62,63,65条)。

 同法に基づいて設置される人権委員会は,独立した法人として行為能力を有し,人権の伸長と保護,そして人権侵害の救済に必要な機能と権限を保持している(4,5条)。そして,禁止された差別について,被害者の訴えに基づいて,または独自の判断で当該問題を調査し,当事者を拘束する調停を行ない,違法性の判断と民事的責任の決定のため裁判に付託する権限を与えられている。さらに,人種・民族的出身の集団に対する脅迫と攻撃を目的とする出版・放送および公の会合での表現もしくは発言を犯罪とし,3月以下の懲役または2000ドルの罰金を科すとしている(131条)。

(金 東勲)

[オーストラリア]

 オーストラリアにおける公的・私的差別の規制は,主として連邦および州・地域が制定する種々の法律によって行なわれる。主な連邦法には<1975年人種差別法>や<1984年性差別法><1992年障害差別法>などがある。各種の反差別立法は,雇用や住居,教育,物品・サービスの供与などの一定の分野における差別を対象とする。規定の内容は個々の法律によって異なるが,概して,それらの差別の禁止と,差別の防止のための啓発・啓蒙や調査・研究の実施などが中心である。それに加えて,個人が申し立てる苦情の処理手続が設けられる場合がある。たとえば,上記の連邦法および<1986年人権及び機会均等委員会法>に基づき,人種や性,障害などを理由とする差別に関して申し立てられた苦情の調査・調停が行なわれている。オーストラリアの反差別立法,とくに連邦法たるそれの特徴の一つは,関連する国際文書と密接な関係があることにある。

(村上正直)

参考文献

  • 石朋次編『多民族社会アメリカ』(明石書店、1991)

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Last-modified: 2015-12-03 (木) 21:09:54 (1295d)