反社会的行動【はんしゃかいてきこうどう】

 字義通りには,道徳や法を犯し,社会の秩序を乱し,社会に悪い害をもたらす行動をいう。しかし,このような反社会的行動の常識的理解には,いくつかの問題が含まれる。

 第1に,道徳や法の社会的適用をめぐる問題である。道徳や法は,社会の境界を維持する機能をもつ。しかしその社会は,特権や権利の不平等な配分によって序列化された社会である。社会の多数者は,道徳や法が守る社会的秩序から特権を享受する。少数者は,秩序の恩恵から排除される。たとえば〈部落民は市民的権利を不完全にしか保障されていない〉とは,このことをいう。この社会で,多数者が道徳や法を侵犯するとき,加えられる社会的制裁(罰)は軽くなるのに対し,少数者の場合は重くなる。たとえば*米騒動のとき,部落民は不当に加重に処罰された。このように,道徳や法は不平等に社会に適用される。

 第2に,反社会的行動の原因をめぐる問題である。原因はまず,行為者の人格の病理性に求められた。次に,行為者の家族背景等の環境の歪みに求められた。そして下層の人々にそれらの歪みが集中するとして,社会構造の矛盾が指摘された。しかし人格説,環境説のいずれも,反社会的行動の原因を個人の事情に求める点で,同じ発想に立つ。たとえば部落民が反社会的行動をとるとき,原因はすべてその出身ゆえの必然的な結果とされる。ところが反社会的行動は,多数者が少数者の行動に反社会性の烙印を押すことによってつくりだされるものでもある。部落民の石川一雄さんを冤罪に陥れた*狭山事件は,その例である。人は,〈犯罪者〉という烙印を押されて,犯罪者となる。そして,いったん押された烙印は,一般化・絶対化されていく。すなわち反社会的行動とは,人間の行動の内的性質でなく,他者が道徳や法を〈侵犯者〉に適用した結果にすぎない。ここに,少数者を烙印づけしていく権力作用が働いている。

 第3に,反社会的行動の機能をめぐる問題である。反社会的行動は,社会にとって必ずしも逆機能(害悪)とはならない。それはまず,行為者の欲求を直接的または間接的に充足することで,抑圧・鬱積したエネルギーを解放し,ひいては社会の秩序を安定させる。犯罪組織の隠れた役割が,ここにある。次に,反社会的行動が非難と法的制裁を受けることにより,(行為者を含む)社会の成員に道徳秩序の境界域を自覚させる。すなわち社会は少数者を*スケープゴートにし,見せしめにすることによって,その統合を強める。たとえば石川さんを〈犯罪者〉に仕立てることによって,〈やっぱり〉と非部落民の差別的な秩序意識が表出され,強化された。その意味で,(捏造された)反社会的行動は〈差別〉社会にとって機能的(必要)なものである。このように反社会的行動は,道徳や法の人為性や適用の恣意性,さらに社会自体の差別性や抑圧性を暴き出す。

*ラベリング*スケープゴート

参考文献

  • E.デュルケイム『社会学的方法の規準』(宮島喬訳,岩波書店,1978)
  • H.S.ベッカー『アウトサイダーズ』(村上直之訳,新泉社,1978)
  • 岩井弘融『犯罪社会学』(弘文堂,1964)
  • 大村英昭・宝月誠『逸脱の社会学』(新曜社,1979)
(青木秀男)

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Last-modified: 2015-12-03 (木) 21:09:54 (1354d)