犯罪被害者の救済【はんざいひがいしゃのきゅうさい】

 犯罪による被害者は,殺人をはじめ傷害や性被害など多様であるが,もっとも悲劇的なのは殺人による被害者である。残された被害者遺族をどう救済するかの運動は,1950年頃からイギリスで始まり,今や先進諸国の大部分がなんらかの措置をとっている。

 日本では,80年(昭和55)の犯罪被害者等給付金支給法【はんざいひがいしゃとうきゅうふきんしきゅうほう】の制定に基づき,犯罪被害者補償制度が81年に実施された。同法は,生命,身体を害する犯罪行為により不慮の死を遂げた人の遺族などに給付金が支払われるものである(その他に傷害給付金がある)。給付額は,遺族給付金が最低額220万円,最高額が1079万円である。ただし,第1順位の遺族であること,被害者と加害者が親族関係である場合や,被害者が犯罪を誘発したとき,あるいは*労働者災害補償保険法の適用があるときには支給されないなどの制約がある。これまでの殺人被害者への平均支給額は約220万円にすぎない。交通事故による強制保険の支給額が3000万円であるのに対し,同じ死亡による被害でも殺人の場合は最高額でも3分の1であり,現実には10分の1程度しか支払われていない。それも97年(平成9)に死亡を含む重傷害を受けた者は3640人(『犯罪白書』1998年版)いるが,実際に補償を受けた者は,わずか259人にすぎない。

 なお犯罪被害者の保護と権利回復を目的とした犯罪被害者保護法【はんざいひがいしゃほごほう】と、それに伴う刑事訴訟法および検察審査会法の一部改正が2000年(平成12)5月成立。犯罪被害者保護法は、被害者とその遺族に対する傍聴の優先、公判記録の閲覧、改正刑事訴訟法では、ビデオカメラを使い、別室で証言する証人尋問の導入、性犯罪被害者の告訴期限の撤廃、改正検察審査会法では、検察審査会への申し立て権を、被害者が死亡した場合には遺族にも認めるもの等である。いずれも被害者の権利を強化したものであるが、その評価は、加害者の量刑への影響との関係で、今後の実務を踏まえての論議が期待される。

 被害者の補償問題に関し,国連では85年に被害者の権利の擁護,被害者に関する司法手続きの保障などを定めた〈犯罪及び権力濫用の被害者に関する司法の基本原則の宣言〉を採択している。一方,被害者の権利を強化することは他面において加害者への刑罰強化につながるという問題がある。近年の警察主導型の被害者支援の動きには注目しておく必要がある。加害者と被害者は対立関係ではなく,両者とも,ある意味では被害者であるとの考えが根底になくてはならない。イギリスやオーストラリアでは被害者対策の予算は年間国民1人あたり500円,その他のヨーロッパ諸国でも60〜70円であるが,日本は4〜5円にすぎない。ただし被害者支援は単に経済的支援だけではなく,精神的な面での地域社会による支援が不可欠である。

参考文献

  • 大谷実・斉藤正治『犯罪被害給付制度』(有斐閣,1982)
  • 諸澤英道編著「トラウマから回復するために」(講談社,1999)
  • 同「被害者支援を創る」(岩波ブックレット,1999)
(菊田幸一)

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Last-modified: 2015-12-03 (木) 21:09:54 (1294d)