表現の自由【ひょうげんのじゆう】

〈表現の自由の憲法的意義〉

 表現の自由は民主政治の存立・発展の基礎をなすきわめて重要な人権であって,日本国憲法のもとでも人権体系の中核をなす精神的自由権の一態様として強い保障を与えられている(21条)。これにより,新聞,放送など,マスメディアの報道の自由が保障される。表現の自由は,教科書検定制度の問題にみられるように、国家権力との関係において市民の思想表現を制限してはならないという意味でいわれてきたが,市民相互間の関係においてもそのルールは基本的に妥当すべきものである。

〈表現の自由の限界〉

 表現の自由も無制限に許されているとはいえず,当該表現が特定個人の尊厳を傷つけたり,不必要に関係者のプライバシーを暴いたりして社会に害悪を与える危険があるときは,<公共の福祉>による制約を免れない。新聞,雑誌,テレビなどのマスメディアによる名誉毀損事件は少なくない。いわゆる*差別表現【さべつひょうげん】も,問題とすべき表現態は多岐におよぶ。これには,直接的危害を呼びかける扇動行為,賤称語・*差別語を表した侮辱言動から,差別語の比喩的使用,さらには直接的な差別的言辞は用いず大衆の差別意識を利用して,それを助長・拡散する言辞などがある。このうち差別語の使用にかかわる1971年(昭和46)の*参議院議員選挙公報用語削除事件では,<公職の候補者の表現の自由といっても政見放送および公報掲載文における品位保持は守られるべき>として,自治省の判断で問題部分を削除し公報を刷り直した。差別助長・拡散的表現については,*矢田教育差別事件でも問題となった。

〈差別表現に対する規制〉

 その方法として,ジャーナリズムの側が自主規制,禁句集,*言い換え集などを社内用に作るといったやり方が行なわれているが,これでは背後にある差別の解消には役に立たない。さりとて無限の幅のある表現に刑罰法規が軽々に発動されるべきではない。だが,差別表現に対する現行刑法230条,231条(名誉毀損罪【めいよきそんざい】,侮辱罪【ぶじょくざい】)の規定が市民の人権保障にあまり役立っていない一方で,目にあまる悪質な扇動,暴力行為や意図的な差別的営利行為が法制の不備ないし不発の状態で放置される結果,重大な人権侵害を生じさせている。立法論として条例を含めて必要最小限の規制を施す必要があり,それは言論の自由の保障と抵触しないと考えられる。なお85年の<差別規制法>要綱案【さべつきせいほうようこうあん】では,刑法侮辱罪の特別法として,<ことさら部落差別,民族差別の意図をもってする個人もしくは集団の侮辱,名誉の侵害と、差別煽動の目的をもってする個人又は集団に対する暴力行為の挑発〉を提案している。

 なお政府は95年(平成7)12月に*人種差別撤廃条約【じんしゅさべつてっぱいじょうやく】を批准したものの,差別思想の流布,扇動等を法律で処罰するよう求める4条の規定について<憲法との整合性>を理由に留保した(戦争宣伝行為を法律で禁止することを定めた自由権規約20条は留保していない)。しかし仏英など先進国では,同条約はいち早く国内法に受容されている。

参考文献

  • 上野勝「現行法制度における部落差別の法的規制の内容とその限界」(『部落解放研究』33号、1983)
  • 平川宗信「差別表現と『個人の尊重』」(部落解放研究所編『憲法と部落問題』解放出版社、1986)
  • 村越末男・横田耕一他「シンポジウム差別問題と『表現の自由』」(『ヒューマンライツ』80号,1994)
(睫鈞胆 

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Last-modified: 2015-12-03 (木) 21:09:54 (1358d)