貧困【ひんこん】

〈部落の貧困層〉

 1993年(平成5)同和地区実態把握等調査によれば、部落の人々の年間収入は、300〜399万円が13.1%を占め、最も比率の高い層であった。全国調査(1992)でも同じ所得層がもっとも比率が高く、13.6%を占めた。しかし、300万円未満の所得階層の割合は63.6%を占めたのに対し、全国調査(1992)では46.3%と、部落の人々の所得の低さをうかがい知ることができる。部落の貧困状況は、これまでの多くの調査では、生活保護世帯、住民税非課税世帯の把握を通じて行なわれることが多かった。93年調査では、部落における生活保護受給者率は52.0‰であり、全国の7.1‰を大きく上回った。部落における生活保護受給者率は、75年(昭和50)の76.0‰に比べ減少しつつあるが、依然として高い数値を示している。生活保護は、貧困を示す一つの指標であるが、以上のことから、部落には貧困という問題が依然重くのしかかっているといえる。

〈野宿生活者の貧困〉

 大都市を中心に多くの野宿生活者【のしゅくせいかつしゃ】が暮らしている。空き缶・段ボール回収などでわずかな収入を得ているが、住居を持てず、公園や路上で暮らしている。その意味で、きわめて厳しい貧困状況にあるといえよう。しかし、住居を持たない野宿生活者の場合、容易に生活保護は受けられない。とくに〈住むところがないと十分な効果の上がる保護が行なえない〉ことを理由に、保護が実施されない。住む場所がない人々は、居住場所を持っている人々以上に貧困な状況におかれていると考えられるが、そうした貧困層には、何ら生活保障的な施策は講じられないのが、日本の実態である。ただ、名古屋地裁は、野宿生活者である原告の生活保護申請を却下した名古屋市に対して、〈原告に稼動能力があっても実際に就労する場がなかった〉として、市の決定を取り消している(1996.10.30,林訴訟【はやしそしょう】)。

〈《貧困》概念の深化と日本〉

 世界的には、開発途上国を中心に貧困問題は依然として深刻である。こうした深刻な貧困問題を克服するにあたって、あらためて〈貧困〉概念を再検討し、新たな視点からの救済措置が検討されている。かつて、貧困は、一定量の食糧を得るために必要な所得水準(貧困ライン)に達していない状況として把握された(所得の視点)。戦後は、この概念が豊富化され、貧困は食糧を含めた人間の必要最少限のニーズ(食糧のほか、医療、教育、住宅、雇用など)が満たされていない状況とされた(ベーシックニーズの視点)。

 しかし、これらの施策だけでは、貧困が十分に克服されてこなかった現実のなかで、近年提起された新しい視点は〈能力〉である。この視点では、貧困とは、その社会の中で生きていくのに必要ななんらかの基本的能力が欠如している状態にあるとみる。すなわち、この視点では、寿命、健康、住居、知識、参加、環境など多様な視点について、何らかの〈能力〉が欠けているために自立生活・社会生活が送れなくなっている状態を貧困ととらえ、それを克服するには、人間の機能回復・強化が重要とされる。

 今日、西欧諸国や一部の開発途上国では、この第2、第3の視点に基づいた貧困対策が実施されている。しかし、わが国では依然として、物的な保障の視点だけで貧困問題への対応がなされているのが現状である。

参考文献

  • 国連開発計画編『人間開発報告書1997 貧困と人間開発』(1997)
  • 連合大阪あいりん地区問題研究会『日雇労働者・野宿生活者問題の現状と連合大阪の課題』(1998)
(福原宏幸)

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Last-modified: 2015-12-03 (木) 21:09:54 (1411d)