文化多元主義【ぶんかたげんしゅぎ】 cultural pluralism

 社会に複数の文化が存在するとき,そのなかの支配的な文化を基準に*同化【どうか】をはかるのではなく,それぞれの異なりを尊重しながら*共生【きょうせい】をはかり,多様性そのものを社会の活力として生かそうとする考え方。同化が〈るつぼ〉だとするなら,文化多元主義は〈モザイク〉〈サラダボウル〉〈虹〉〈万華鏡〉などにたとえることができる。

 文化は基本的に閉じたシステムであり,それぞれ固有の意味体系をもっている。しかし,文化の固有性や固定性を強調しすぎることにも問題がある。たとえば,部落差別は,賤視観念に基づく日本独特のものであるが,国内外のさまざまな差別と共通する仕組みをもっていることに目を向ける必要がある。また,部落差別意識は依然として根強いものの,他方では人権意識の広がりによって,部落差別を許さない意識が広がっていることをおさえなければならない。

 文化を,ある集団に共通する生き方,感じ方,考え方,価値観,行動様式を意味づける文法として定義するならば,人種,民族,国籍,性別,年齢,社会的出身,障害の有無など,属性が異なる集団ごとに,それぞれ独自の文化があると考えることができる。*多文化教育【たぶんかきょういく】における文化概念は,このような意味で用いられており,部落民の*アイデンティティの根底にも、被差別性に関する認識や感覚において、一定の共通した文化的特徴をみとめることができる。しかし,文化のカテゴリーで,その集団に属する個々の成員をすべて同じとみなす考え方には注意が必要である。文化内の差が,文化間の差と同様に大きい場合があるからである。部落内の多様性,あるいは部落と部落外の共通性に着目する視点が求められる。また,ある個人のアイデンティティをとらえる際にも,一つの属性をもとに決めつけてしまうべきではない。たとえば,部落民を部落民としてのみとらえると,そのために見えなくなることがある。個人は同時に複数の文化集団に属しており,それぞれにどのような比重と意味づけを与えるかによって,そのアイデンティティが規定されるからである。

→*多文化教育

参考文献

  • 広田康夫編『多文化主義と多文化教育』(明石書店,1996)
  • C.テイラー、J.ハーバーマス他著『マルチカルチュラリズム』(佐々木毅他訳,岩波書店,1996)
(平沢安政)

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Last-modified: 2015-12-03 (木) 21:09:55 (1358d)