報道被害【ほうどうひがい】

 報道によって名誉を毀損されたり、プライバシーを侵害されたりすること。この言葉は、本来、市民の人権を守る立場にあるマスメディアが、逆に市民の人権を侵害する加害者になっていることを示す。とりわけ犯罪報道による人権侵害は、被害者に取り返しのつかない深刻な打撃をもたらしている。

 日本の犯罪報道は、逮捕された被疑者を犯人と決めつけ、実名・顔写真入りでプライバシーを暴き、さらし者にする。本来無罪を推定されている被疑者に対するこの〈犯人視報道〉は、証拠に基づかず、警察の情報に依存して下される〈裁判なき有罪判決〉である。

 それは、冤罪事件では、無実の人に対する重大な人権侵害である。なかでも甲山事件【かぶとやまじけん】(1974)、ロス疑惑報道【ろすぎわくほうどう】(1984)などは、警察・メディア合作の冤罪であり、被害者はいまなお困難な闘いを強いられている(甲山事件は1999年9月に大阪高裁で控訴棄却、翌10月無罪確定)。*狭山事件【さやまじけん】でも、一連の報道は、無実の石川一雄さんを犯人扱いしただけでなく、被差別部落に対する偏見・差別を助長し、裁判官の予断を生むなど裁判にも重大な影響を及ぼした。また、被疑者が無実ではなくても、実名悪人視報道は不当な社会的制裁=私刑である。また、事件の被害者も興味本位な実名報道の被害を受けている。

 報道被害をなくすには、警察情報に依存した犯人視報道をやめることと権力犯罪以外の一般刑事事件では、被告を匿名で報道することが必要である。また、報道被害の防止・救済のためには、報道機関が自らの責任で運営するメディア責任制度(報道評議会やプレス・オンブズマン制度)の確立が急務である。匿名報道やメディア責任制度は、メディアに対する市民の信頼を支え、権力の報道への介入を防ぎ、言論の自由を守る保障ともなる。スウェーデンをはじめ、世界各国で実施されており、日本でも1985年(昭和60)に発足した〈人権と報道・連絡会【じんけんとほうどうれんらくかい】〉など各地の市民団体が、その実現に向けて運動を展開している。

参考文献

  • 浅野健一『新犯罪報道の犯罪』(講談社文庫、1989)
  • 人権と報道・連絡会編『報道の人権侵害と闘う本』(三一書房、1995)
  • 山口正紀『ニュースの虚構 メディアの真実――現場で考えた'90〜'99報道検証』(現代人文社、1999)
(山口正紀)

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Last-modified: 2015-12-03 (木) 21:09:56 (1388d)