民族紛争【みんぞくふんそう】

 少数エスニック集団が自己決定権を主張して国家と争うエスニック紛争を指す。固有の文化・歴史・言語・宗教などを共有することで,自分たちを同じ*アイデンティティをもつと自他が認める*エスニック集団のなかでも,自ら国家を形成し,あるいは形成する意志をそなえている集団を民族【みんぞく】と呼んで区別する。ところで,エスニック紛争のなかには,紛争の開始時には,国家を形成する意志のない当事者集団が,たとえばスリランカにおけるシンハラ民族とタミル民族の間の紛争のように,紛争のなかで自決権を主張するようになる場合が多い。したがって,国家との関係や軍事力の使用の有無などで,エスニック紛争が民族紛争に転化する可能性はつねに存在している。しかし,冷戦終結後,民族紛争が注目をひくようになった背景には,国家権力に対するさまざまなエスニック集団の不満が爆発した軍事紛争が多発しており,これらが多くの犠牲者を出しているという事実がある。これらの紛争は,エスニック集団が軍事力に訴えて民族自決ないしは独立を主張するようになっている軍事紛争である。

 ところで,これらの紛争の原因,争点,仲介の可能性,解決へのきっかけなどについて考えるとき,近代戦争,つまり国家間の軍事紛争についての〈常識〉を捨ててかかる必要がある。近代戦争は,各主権国家が合理的な計算に従って戦争を開始し,展開し,また終結する。これに対して,民族紛争の場合には,エスニック集団のアイデンティティにかかわる感情的な集団心理が働く。しかも,非戦闘員を巻き込まないとか,戦闘員も捕虜になった場合に危害を加えないというルールがある国家間紛争とは異なり,国家と少数エスニック集団との間の民族紛争の場合,国家間の紛争ではないため,以上のルールが適用されない。そのため,少数民族【しょうすうみんぞく】の側の戦闘員は反逆者として極刑に処せられることもある。また,ゲリラ型の戦闘も多く展開されて,戦闘員と非戦闘員の区別がつかないという事情もある。さらに,紛争の原因や争点にしても,合理的な国益の計算ではなく,エスニック集団の安全と自立についての不安や不満という非合理的な要因が働く。

 そこで,大切なことは,紛争の原因となっている少数エスニック集団の不安と不満を可能な限り民族軍事紛争になる前に解消する予防外交,あるいは少なくとも紛争解決時に解消することである。このような,少数エスニック集団の不安と不満の原因としては,自集団への公平な資源の供給と社会的役割の配分,私的ならびに公的な場で,自由に自集団の言語・宗教などの活動をする権利の保障,国境を越えた自集団のメンバー間の自由な交流などが挙げられる。グローバル化する世界経済の圧力のもと,紛争の一方の当事者となる主権国家には少数者の問題に配慮する余裕がなく,そこに国際社会による民族紛争解決のための貢献が期待される理由がある。

(武者小路公秀)

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Last-modified: 2015-12-03 (木) 21:09:56 (1469d)