輪廻思想【りんねしそう】 †梵語サンサーラsamsaraの訳。生死輪廻・輪廻転生・流転ともいう。サンサールsamsarさまようという動詞から転化したもので、人間がこの世だけでなく、あの世もまたその次の世も、形態をいろいろ変えながら、車の輪がくるくる回って果てしがないように、生死をさまよっていくという思想をいう。そしてこの迷いの輪廻から脱却することを解脱といっている。古代インドでは梵書ブラーフマナBrahmansaの後期にその思想が見いだされ、ウパニシャッドUpaninsadの時代にはっきりしてきている。『チャーンドーギャ・ウパニシャッド』Chandogya Upaninsadには輪廻の世界としては植物に生まれ変わることもあるとされ、またこの世で善い行ないをなしたものは、次の世では、バラモン・王族・商人階級の胎内に入り、悪い行ないをなしたものは犬・豚・賊人などの胎内に入るとされている。さらにウパニシャッドでは人間が植物や動物やいろんな人間に再生するのは業によるものだと規定している。この考え方を受け継いだ仏教では、衆生が煩悩と業とによって三界(欲界・色界・無色界)六道(地獄・餓鬼・畜生・修羅・人間・天上)の迷いの世界をさまよい続けるとしている。この輪廻思想によって、四姓の階級からはみだされた*旃陀羅【せんだら】は再生の望みはなく、永遠に迷い続けていく存在であるとしたり、前生の悪業によって次の世は不幸な境遇に生まれるとか、障害者に生まれるとかという決定的な人間差別の思想がつくり出されてくる。わが国においても、業論と結びついた輪廻思想は*宿業論等として一部の仏教者らにより流布され、文化・社会意識に大きな影響を与え、部落差別や女性・障害者差別等の人間差別を正当化する誤りをおかした。 参考文献 †
(仲尾俊博)
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