講座・講演録

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2010.07.13
講座・講演録

第316回国際人権規約学習会
世界人権宣言大阪連絡会議は、2010年4月26日(月)、当連絡会議第27回総会記念シンポジウムとして第316回国際人権規約連続学習会を開催しました。報告要旨は以下の通りです。(文責 事務局)

第27回総会記念シンポジウム 世界人権宣言を実現する草の根の活動を求めて

  報 告:森山輝子さん(世界人権宣言豊中連絡会議)、  朴 洋幸さん(世界人権宣言八尾市実行委員会)
八木則之さん(世界人権宣言促進堺連絡会)、  森兼章仁さん(世界人権宣言大阪東地区連絡会議)


助 言:上杉孝實さん(世界人権宣言大阪連絡会議代表幹事)

司 会:友永健三さん(世界人権宣言大阪連絡会議事務局長)

 

 

001友永:1995年から取り組まれた「人権教育のための国連10年」は現在も「世界プログラム」として引き継がれています。「人権教育のための国連10年」は「人権文化」という言葉を提案し、特定職業従事者の中での人権研修の重要性を導き出しました。また、国連を中心とした国際レベル、アジア・太平洋といった地域レベル、日本という国レベル、そして今日のテーマである地方レベルという4つのレベルでの人権教育の必要性も提案しています。
人権が日常生活の中で守られていくには、間違いなく、地域での取り組みが一番大切です。世界人権宣言大阪連絡会議(以下、世人大)は団体と大学、地域連絡会議で構成されています。今日は51地域連絡会の中でも相対的に活発に活動をしているところに報告をお願いしました。活動の進め方の参考にしていただきたいと思います。

組織運営について
森山:世界人権宣言豊中連絡会議は1989年に発足しました。構成団体は豊中市をはじめとする17団体で、とよなか人権文化まちづくり協会内に事務局を置き、同事務局と豊中市役所地域経済振興室・人権企画課・人権教育企画課の各担当職員が事務局として配置され、2ヶ月に1回事務局会議を開催しています。私自身はとよなか人権文化まちづくり協会の職員です。担当者は変わっても事務局体制自体は継続しています。
2009年度予算は19万円ほどでした。支出のほとんどが研修講演会における講師謝礼や事務局が出張する際の行動費など、収入はほぼ加盟団体からの分担金です。

朴:世界人権宣言八尾市実行委員会、「世人やお」は2000年6月に、『「同対審」答申完全実施要求国民運動八尾市実行委員会』と「世界人権宣言八尾連絡会議」が合併し現在に至っています。私自身は2007年から事務局長をしています。
もともと八尾には様々な市民団体があり、労働組合、障害者団体、女性問題に関わるグループや子育て支援等、それぞれが活動しているけれど横のつながりが少ないことから、そのつながりを世人やおとして創っていくことで人権尊重のまちづくりに貢献してようと始まりました。現在も設立当初からの参加団体が多く、加盟組織に労働組合の割合が多いのも特徴です。
運営は年1回の会員総会と毎月1回のネットワーク会議が中心です。加盟団体の誰でも参加することができ、この中で様々な取り組みについて、皆で議論しながら進めています。運営会議はNPOや市民グループが中心で、労組など大きな組織から出てもらうことはできていません。
予算は200万円を少し越えるくらいで、その内、八尾市からの助成金が135万円です。他にも団体会費5000円,個人会費2000円を集めています。助成金以外に自分たち独自の収入があり、それは自由に企画できるという自負があります。予算が大きい分、他の連絡会に比べると活動しやすい環境にあると思います。

八木:世界人権宣言促進堺連絡会は1983年に発足しました。堺市ほか5団体で構成し、役員・幹事は構成団体の代表14名で構成しています。委員長は堺市人権教育推進協議会の会長が兼務しています。事務局長は部落解放同盟堺支部から、事務局は堺市人権部でおこなっています。今年度の予算は約124万円で、全額堺市の補助金です。

森兼:当連絡会議は大阪市北東部の旭区、都島区、城東区、東成区、鶴見区、生野区の6つの地区の連絡会議が結集して活動している東地区連絡会議です。事務局は旭区役所が担当しており、私は旭区役所の職員です。この6区の30団体で構成しておりまして、事業運営は分担金等で行っています。加盟団体の中では6区の企業人権推進協議会も加盟しており、協議会に加盟する企業等にもご協力いただいています。

活動について
森山:毎年5月と12月には啓発ポスターを掲示しています。そして6月に総会と記念講演会を、11月に世界人権宣言の集会を行っています。
毎年、核になるテーマを設定していて、2008年度は女性問題、2009年度は部落問題に焦点をあて、学習会や総会記念講演を開催しました。今年は韓国併合100年ということで、在日コリアン問題に焦点をおいて取り組む予定です。
また、2008年は世界人権宣言60周年だったので、豊中でも少し大きなイベントをしようと記念事業実行委員会を組みました。そして唄う浪速の巨人・趙博さんによる「歌うキネマ『砂の器』」を開催しました。とてもいい内容でしたが、日程が他団体のプログラム日程と重なって、参加者は若干少なかったです。2009年度の世界人権宣言61周年記念豊中集会には足利事件の当事者、菅家利和さんと弁護士の笹森学さんをお招きしました。新聞にたくさん掲載され、参加者も100名を越えました。企業の方が参加しやすいように、開始時間を3時にしたのもよかったと思います。集会に合わせて、世界人権宣言パネル展も開催しました。

朴:2008年には世界人権宣言60周年記念パンフレット「世人やお的世界人権宣言」を作成しました。世界人権宣言30条を、イラストを入れてわかりやすい形にした冊子です。さらに記念事業としてYAOキャンドルナイトを開催しました。ろうそくをともして、ミニコンサートを実施、啓発カードを配布しています。これは通りすがりの人にもっと関わって欲しいと企画しましたが、市民の反応がよかったので、毎年実施することにしました。
また、八尾市内の地域教育や学校等、人権教育・啓発の場で世人やおに集う各グループの研修が活用されるように、2003年には文部科学省の人権感覚育成モデル事業を活用して、加盟団体が提供できる人権学習プログラムを掲載したパンフレットを作成しました。さらに、本会に集う各グループの人権研修が、学校園で積極的に採用されていくように、人権教育学校事業として学校に講師謝金の半分を助成しています。年間15件分くらい予算化し、10件くらい使われています。
他にも八尾市、八尾市教育委員会との共催で年1回「ひゅーまんフェスタ」を実施しています。人権啓発セミナーや展示、参加企画等を同一会場で2日間行ないます。1団体の企画では集客が難しいし予算も限られますが、フェスタの形で行なう事でそれもクリアできます。その際、招きたい講師なども各グループから推薦してもらいます。市、市教委との共催事業としては、世界人権宣言パネル展も開催しています。
 それから、本会会員の自主的な活動を支援するために、「自主活動助成要綱」に基づき市民の自主的な事業を最大3万円まで支援しています。予算は15万円ほどです。
情報の発信としては、季刊「ちいき・人権・World」を年4回発行しています。発行部数は2千部、加盟組織を通じて配布して、毎回ほぼ完売しています。

八木:主催行事として、第二次世界大戦で甚大な被害が記録された1945年7月10日の堺大空襲の惨禍を忘れず、平和の尊さを広く市民に訴えていくために、毎年7月10日直近の休日に、「平和と人権を考える市民のつどい」を開催し、多くの市民の参加を得ています。平和や人権をテーマにした映画や講演、コンサート、そして戦時中の写真パネルや生活用品の展示などを行ないます。戦争が最大の人権侵害であるという認識のもと、世界人権宣言の崇高な理念の普及と、戦争の悲惨さを風化させず次の世代に語り継いでいくという目的をもって、7月の大きなイベントとして、市民に根づきつつあります。今年は7月10日日曜日です。
憲法週間・人権週間には堺市と堺市人権教育推進協議会主催でキャンペーンを実施していますが、世人堺では啓発ポスターを市内の施設や団体、駅等に配付し、憲法の柱である基本的人権の尊重や、世界人権宣言の意義を広く市民に伝えています。この時には市役所、区役所において啓発パネルの展示も行なっています。
連続学習会や集会への参加、ニュースの職場での供覧、啓発ポスター作成時の協力など、世人大に積極的に協力・連携するとともに、団体からの情報の収集にもつとめています。職員のスキルアップ、そして人権をとりまく世界の現状や課題、動向について考えるきっかけを与えてくれ、今後の事業の推進に指針を示してくれるものといえます。

 堺市は2006年12月22日に「堺市平和と人権を尊重するまちづくり条例」を制定されました。全国でも唯一、人権条例の中で平和をうたっていて、これはきわめて特色のあることです。ここでいう平和とは、単に戦争のない状態だけではなく、すべての人の人権が尊重され、地域社会で安心して幸せに生活できる社会の状態のことを言います。堺市ではそのような平和を目指し、たとえば行政の中で、災害や損害、あるいは環境といったものをできるだけ、暴力のない状態にもっていくように努力する、そういった市の特色が世人堺のバックボーンになっています。また、この条例をうけて市は「自由都市・堺 平和貢献賞」を創設されました。これは、アジア・太平洋地域を中心に国際的な平和貢献活動をおこなった個人や団体を表彰するもので、2008年に第1回授賞式が開催され、第2回目の授賞式が本年秋に開催される予定です。
中世、商人を中心とした自治により繁栄した堺の自主独立で自由な気風は現在でも引き継がれています。また、過去3度大きな戦災によって壊滅的打撃を受けましたが、その都度よみがえり繁栄を繰り返してきた根底には、住民の強い意志とパワーがあったのはいうまでもありません。また、おもてなしのこころや、身分に隔てなく同じ立場で接することが基本とされる茶の湯が古くから受け継がれてきています。このような堺が育んできた歴史的・文化的土壌は、人権文化と共通なものがあり、世人堺が啓発推進していくうえで、力強い精神的バックボーンとなると言っても言い過ぎではありません。

森兼:東地区連絡会議は大阪連絡会議に結集しながら、内外の人権擁護の潮流に学び、日常の活動にいかそうと毎年秋に「城北・東人権啓発連続講座」を実施しています。
連続講座は市民に人権の尊さを訴えるとともに、平和・文化・福祉・環境問題などについても関心を高めていただくため、毎年、様々なテーマを定めて実施しています。昨年は20回目という節目の記念講座であることと、世界的な格差社会の進行と不安定な政治情勢にかんがみ、「世界の人権」を大きなテーマにして、世界的な人権擁護団体「アムネスティ・インターナショナル日本支部」に連続講座の講演を依頼しました。
第1講は残念ながら台風18号の影響もあり中止となましたが、アメリカの民主主義と人権意識をテーマに予定していました。第2講以降、人権問題としての死刑やイスラエル問題を軸に偏ったマスコミ報道や意図的に流されるマスコミ報道の問題、普段の生活における人権問題等をテーマに開催し、それぞれ130~160名の参加がありました。3講を通じて様々な切り口で人権問題についてわかりやすくお話いただき、受講された方々の今後の活動の指針としていただけたのではないかと思います。主催者としても、今後の活動の参考になることが多く、とても感謝しております。

上杉:連絡会議の大きな利点は2つあります。加盟団体同士が情報交換を行い、お互いを参考にしながら取り組みを行えることが1点、もう1点が1つの団体だけでは難しい事業を連携することでさらに良いものに仕上げていけることです。反対に課題は加盟団体と全体の組織との関係です。加盟団体自体が協議会的な組織の場合、単位団体を抱えているため、連絡会議が二重、三重構造になり、単位団体が見えにくくなります。それぞれの単位団体の動きが全体にわかるようにしていく取り組みが求められます。その際、報告でもありましたように定期的な会議が重要になります。それぞれの団体の単位団体の取り組みも含めた情報交換がきちんと行われていれば、単位団体の活動にも様々な刺激を与えるでしょう。
加盟団体の組み方には違いがありました。堺の場合、人権教育推進協議会や部落解放同盟等、かなり大きな団体で構成されていました。豊中は教育関係の団体が多いのが特徴です。八尾は組合やNPO法人などボランタリーな団体が中心で、個人加盟もあります。大阪東地区は市の中の一機構である区単位の組織がいくつか寄り集まっていました。このような場合、事務局がかなり大きな役割を担わなければならないでしょう。
経費面では八尾と堺は市からまとまった額の補助金が出ていました。それに対して豊中や東地区は分担金という形でやっているとのこと。一概に言えませんが、ある程度自治体が関わっていかないと財政的に大変でしょう。補助金が出ていると予算総額が大きく、回りやすくなります。しかし、自治体任せでいいのかとなれば、それはまた違う。八尾のように自主財源を持ち自由な活動を保障することも大切です。
いずれも企業が関わっていることが見えました。労働組合が先駆的に関わってきた八尾のケースもありますが、企業自体の人権啓発組織が関わっているところが多いようです。今後、職域における人権啓発が大切になってくるでしょう。昨今の経済情勢では中小企業等は大変でしょうが、そういうところこそ地域の中で重要な場を占めているので、関わっていただくような工夫が求められていると思います。

これから力を入れていきたいこと、地域連絡会議を活性化するための提案等など
森兼:私たちは各区でもそれぞれ活動していますが、世人東地区として6区が連携して一つの大きなつながりを作り、過去24年続けてきた経緯もあります。区単位ならやることに限りも出てきますが、広域でひとつのイベントや活動を続けていくことが大きな力になっています。一方、それぞれが近いようで遠いということもあり、お互いどういうことしているのか分からない場合もあるので、連絡・情報交換をもっと密にしながら高めあっていきたいと思っています。

友永:人権啓発推進協議会は大阪市内各区にあります。世人の地域連絡会議との違いは、1つは加盟団体です。人推協は市民組織が中心、世人は労働組合や解放同盟の支部等、運動団体が加盟しています。もう1つは東地区のように、行政が既存の枠を超えて連携しているところです。外にも住吉区と住之江区など、既存の行政の枠組みを超えて連繋し世人の地域組織としての独立性を発揮しています。また、世人は世界的に起こっている人権問題をテーマにしていることなど、組織面と取り上げるテーマの違いがあるのです。

八木:元々人権意識が高い人だけでなく、たとえば区民祭りや商業施設等、人権啓発とは違う目的で来る人なども巻き込めるような場所を使って、より広く啓発活動を行なっていきたいです。
他団体とも情報交換しながら協力・連繋していきたい、特に企業との連携を目指しています。堺市人権教育推進協議会の構成部会の中にある企業部会は堺市内に事業所をおく企業から構成され、公正採用選考人権啓発推進委員を中心に就職差別撤廃に向けた取り組み等、さまざまな啓発活動を推進しています。企業の社会的責任とそれを基にした社会的責任投資など、人権分野での企業の果たすべき役割はますます重要になってくるでしょう。現在も協力している部分もありますが、まだまだ十分ではありません。企業部会との連携・協力を今以上に密にし、課題解決に向けた取り組みを推進していく必要があります。

朴:基本的には毎年やっている企画を充実させていきたいです。ひゅーまんフェスタは「誰でも気軽に参加できる」をうたっているので、関係者だけではなく、八尾市民が参加できる企画にしたい。ニュースやHPを通じて広報も充実させたいです。
また、加盟団体にも加盟していることへの“返し”を追及していきたいと思います。現在、月1回のネットワーク会議を加盟団体の事務所で持ち周りで開催しています。そうすることで、お互いの様子が理解し合えます。未加盟の様々なグループとももっとつながっていきたいです。1つの団体で取り組むことが難しい課題でも、ネットワークの中で共有し、協力して取り組んでいきたいと思います。

森山:組織の拡大を考えています。他にも「世界人権宣言30条パネル」の巡回展等、やりたいことはたくさんあります。
広報の工夫、一般市民への働きかけが大きな課題だと思っています。例えば、皆さんの周りの方は世界人権宣言を知っていますか。私の家族は知りませんでした。食事の時の話題にあげてみてはいかがでしょうか。

上杉:森山さんがおっしゃったように、人権宣言をもっと私たちの身近な問題に結び付けながら理解を深めていく役割があります。残念ながら日本には国際的な人権の動きをしっかり広報するシステムが政府にもありません。世人大も国際的な人権問題の動向が私たちの身近な問題にどう連動しているのか、市民に伝えていく役割があります。
また、連絡会議が一部の人の動きであるように市民に映ってしまってはいけません。単位団体においては構成員が「自分の団体は他団体と協力してこういうことをしている」と意識することが大切です。協議会の取り組みに、単位団体の構成員は遠い印象を持ってしまうことがありますが、そこを突破する努力が必要です。
そのためにも定期的な情報提供は極めて大切です。八尾のように会議の場所を一巡することでお互いを知り合うというのも大変参考になります。それぞれの実態を知り合えるし、自分の団体の取り組みにつながっていくことがすばらしいと思います。連絡会議、協議会組織は単位団体の協力で成り立っているわけですから、単位団体の取り組みに協力する努力が必要です。
まだ加入していただいてない団体に継続的に働きかけることも必要です。呼びかけが繰り返し行われることが目を向けてもらうことにつながるでしょう。

友永:ありがとうございました。私も大学での講義で必ず「世界人権宣言を知っていますか」と聞いています。名前を知っている人は多くて7,8割、読んだことがある人だと1,2割です。内容を知らない人が多いことを念頭において、宣言を自分の身近な人権課題に結びつけるようにしてもらい、学校や職場が少しでも良くなるようにしてもらうことが私たちの一番の課題だと思います。

 
今日の報告を皆さんの活動に反映させていただけると嬉しく思います。