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2008.04.21
部会・研究会活動 <法律・狭山部会>
 
法律・狭山部会・学習会報告
2008年2月15日

広島三菱元徴用工・在韓被爆者訴訟

在間秀和(弁護士)

1.訴訟の概要

 1944年に朝鮮半島から徴用された人々が三菱重工で労働に従事させられ、その際に原子爆弾に被爆をした。しかし、その後1995年になって、最終的に国、三菱重工、菱重を被告として提訴した。最終的に原告は46人となった。菱重とは、財閥解体の際に戦前の三菱重工を商法上承継したのであるが、三菱重工側が別会社論を展開して責任を回避しようとしたため、両者を訴えたものである。請求内容は1人あたり慰謝料が1000万円と、弁護士費用が100万円である。国に対しては、強制連行と強制労働、被爆直後の放置、さらに戦後の被爆者援護を行わなかったことである。三菱重工・菱重に対しては、強制連行・強制労働・被爆直後の放置に基づく慰謝料請求のほか、未払い賃金の請求を行っている。

2.1審判決・高裁判決

 第1審判決は1999年に行われたが、判決は実にシビアであった。戦前の国の責任については国家無答責論を展開し、戦後の被爆者政策についても責任は無いとした。三菱重工・菱重についても、時効の成立及び除斥期間の到来によって請求は棄却された。この判決は実態についての認定をまるでしておらず、極めて不当である。

 これに対して高裁判決(2005年)は、戦後の被爆者政策からの排除について勝利した。ただしその他の請求については負けている。しかし、事実認定が1審判決に比して大変丁寧であった。強制連行や強制労働の実態を各原告ごとに行ったのである。戦後補償部分については責任を否定したのではあるが、1審のように冷たく否定はしなかった。強制連行については、欺罔・脅迫を用いて徴用したのは、超用例に基づくとはいえ逸脱があり、不法行為成立の余地があるとした。また、国家無答責論は、行政裁判所と司法裁判所に二元化していたが、戦後一元化され、民法は一般法であるから司法裁判所は審理できたはずだとして、無答責論に一般的な正当性は認められないとした。安全配慮義務についても、三菱重工社員も現地におり、警察官に引き渡すまでは特別な社会的接触があるとして、事実上肯定した。しかし、請求権については日韓請求権協定に基づく特別措置法によって消滅したとしている。

 なお、原爆被害の放置に関しては、被爆者関連法においては国籍条項がなく、特殊な健康被害であると位置付けられており、被爆者認定のために来日を求めるのは違法だとした。また、1974年の402号通達により、来日すれば援護を受けられるものの、出国した段階で執行するという扱いの合法性が問題となったが、広島高裁は、国籍条項を持たない原爆3法の解釈としては誤っているとし、原告に精神的被害を与えたため、被告1人につき100万円の慰謝料支払を命じた。これは思い切った判決である。ただし、三菱重工と菱重については、強制連行や安全配慮義務、被爆直後の放置について不法行為・義務違反成立の余地があるとしたが、未払い賃金については内容が確定できないとして排斥し、財産権特措法によって権利それ自体が消滅したとして、これら企業に対する責任は認められないとした。

3.最高裁判決

 双方は直ちに上告したが、最高裁は2007年11月に判決を言渡した。原告側に対しては、戦後の財産処理については超憲法的な問題であるから損害賠償請求は出来ないため、憲法違反の主張は採用できないというものである。また、国の上告受理申立に対する判決については、高裁と同様、402号通達の定めは、原爆2法の解釈を誤る違法なものであって、1974年段階で国外に出た者を執権扱いすることが違法であると認識しながら当該通達を発したことは国賠法上違法の評価を受けるとし、高裁判決の「判断は、是認できないではない」と消極的な表現ではあるが、高裁判決を支持した。

 これにより、原告全員が救済されることとなったが、原告の中には既に亡くなられている方もおられ、相続の問題が生じているケースもある。この点をどう整理するかが最後の課題といえよう。

(文責:李嘉永)