調査研究

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部会・研究会活動 <成人教育部会>
 
自己実現・社会参加への誘導要因
-効果的な成人教育の企画・運営のためのケーススタディ-
はじめに

 自己実現・社会参加を進めるには、自己を見つめ、社会とのかかわりで考え、問題解決に取り組む学習を重視する成人教育の役割が大きい。成人は成熟を前提とした存在であり、それぞれ豊かな人生経験を持つ主権者である。成人教育は、このような成人がその特性に立脚した学習を計画的に進めるものであり、自らが管理する学習が、その中心的位置を占めるものである。

  その意味でも、広義の参加型学習は、成人教育の歴史で早い段階から強調されてきたものである。20世紀初めイギリスの労働者教育協会で開発されたチュートリアルクラスや、20世紀半ばの日本における共同学習の提唱も、その例としてあげることができる。

 民主主義の徹底を図り、人権文化を創造することが大きな課題となっている今日、自己実現・社会参加を進める成人教育は、一層学習者の参画のもとに推進されねばならない。学校教育において多く見受けられる、教育者と学習者が教室で向かい合うようなフォーマルな教育だけでなく、意図的・計画的であるが討論や体験を通じてのノンフォーマルな教育、共同活動を通じての学習効果に着目したインフォーマルな教育に注目が集まっている。

  このことは、講義形式の学習を排除するものではない。体系的に認識を深めていくうえで、じっくり話を聴くことも重要である。しかし、同時に学習者の主体性の発揮なしには、自己実現・社会参加に容易につながらないことに目を向けなければならない。どのように多様な方法を効果的に結びつけるかが問われているのである。

 この報告書では、成人教育のとらえ方を整理しながら、成人学習を進める企画・運営のあり方を追究している。プログラムの立案から具体的な学習方法まで考察し、学習による変容がどのようになされるかを検討している。

  具体的な事例としては、学習と実践を重ね合わせている公民分館のクラブ、学習者が教育の担い手になる過程を重視した取り組みを進めている人権教育企画・運営グループ、野宿生活を強いられてきた人びととともに学びを築くことに努めているボランテイア、女性のエンパワメントに取り組む学級、地域づくりを通じての人々の交流と学びあいの見られる町をとりあげている。これらに共通しているのは、参画による自己実現に向けての学習の工夫である。これらの資料に基づいて、今後の課題を明らかにしたい。

成人教育部会部会長 上杉 孝實