調査研究

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2004.05.31
部会・研究会活動 <歴史部会>
 
歴史部会・学習会報告
2004年3月6日
被差別部落における産業の存立基盤
-戦後和泉地区人造真珠産業を事例として

大西祥恵(大阪市立大学経済学研究科後期博士課程)

「存立基盤」論アプローチ

 これまでの被差別部落(以下、部落)の産業に関する研究は、その低位な実態や差別事象などに焦点をあてたものが多かった。そうした研究は優れた成果をあげてきたといえるが、そもそも部落に当該産業がなぜ存立し、維持されてきたのかという視点、つまり、「存立基盤」を詳細に吟味するというような視点からの研究は、ほとんどなかったように思われる。

 この「存立基盤」論は、中小企業研究や地場産業研究の分野で重視されてきたものである。

 さらに、中小企業や地場産業に関する研究との関連でいうと、これまで「部落産業」の特徴として指摘されてきた事柄が、「部落産業」に限って認められる点なのか、それとも中小企業や地場産業一般にもみられる現象なのかということについては峻別されてこなかった。これらの視点から、「部落産業」とは何かを再確認することは有意義であると考えられる。

 以上のような問題意識から、本研究では事例として大阪府和泉地区人造真珠産業を取り上げ、その存立条件を明らかにするとともに、「部落産業」としての特質を抽出することを目的とした。ここでは紙幅の都合によって、高度成長期までの労働条件に関する事柄に限定する形で紹介したい。

「部落産業」論・中小企業論・地場産業論

 先行研究によると、中小企業や地場産業の一般的な存立条件としては、賃金が低いこと、労働時間が長いことなどが指摘されていた。また、それに加えて、部落出身の労働者は、一般に差別のために地区外で雇用されなかったといわれており、この点も存立条件に大きな影響を与えたものとみられる。

和泉地区の人造真珠産業

 実際に、和泉地区の人造真珠産業を検討していくと、人造真珠製品のブーム期には高いが、停滞期には大きく落ち込むというような不安定な収入の実態、受注の有無に左右されるが比較的長い労働時間などが明らかになった。そして、和泉地区住民が人造真珠産業以外の仕事に従事しなかった理由としては、部落差別のために地区外では雇用されなかったことが第一に挙げられるが、それだけに限定されず、第二に、学校に行くことの出来なかった層が多く、そうした層は識字能力を身につける機会を奪われたために、地区外で単独で就労することが難しかったこと、第三に、人造真珠産業が非常に栄えていた当時、あえて他の仕事を探す必要がなかったとの知見が得られた。そして最後に、「部落産業」の特徴を挙げるとすると、人造真珠産業以外の仕事に従事しなかった三つ理由の前者二つということができる。

(大西祥惠)