調査研究

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2005.07.11
部会・研究会活動 <歴史部会>
 
歴史部会・宗教部会 学習会報告
2006年6月3日
 6月例会は、歴史・宗教の合同部会として開催された。その内容は、今年8月に長崎で行われる「第12回全国部落史研究交流会」、前近代史分科会の予備報告であった。
近世初期皮屋集団のキリスト教受容について

阿南 重幸(長崎人権研究所事務局長)


 まず阿南重幸さんより、「近世初期皮屋集団のキリスト教受容について」という題目で報告があった。「キリシタンと部落問題」というテーマについては、差別分断支配の象徴として、両者の対立がクローズアップされる場合が多かった。しかしすでに60年代には、原田伴彦さんや結城了吾さんによって、近世初頭に長崎でのキリシタン弾圧に抵抗した「皮屋」が紹介されている。

 本報告ではこのような視点に立って、<1>キリシタン禁制以前(〜1614年)、<2>キリシタン禁制後に区分して、近世初期「かわや」集団のキリシタンとしての姿が紹介された。

 <1>の時期においては、フロイスなど宣教師の著作に「革の棚」、「きわまりたるひにん」、「非人乞食」などの表現があり、慈善事業を通じていわゆる賤民との関わりが指摘できる。但し、「エタ」の起源を「ハンセン病」におくなど、風聞と事実との混同があったようである。

 <2>の時期においては、現実としてキリシタンが弾圧され、刑罰の執行に関して、その手伝いを課せられるべき「かわや」集団が、それを拒否した事例が見られる。今のところ長崎の事例以外には見られないが、「かわた」「長吏」へのキリスト教伝播は、「類族令」に関する史料からも明らかになっているということなので、今後の研究の深まりに期待したい。

真宗と被差別民

山本 尚友(熊本学園大学教授)

 つぎに山本尚友さんより「真宗と被差別民」という題目で、研究史の整理に主眼をおいた報告が行われた。

 被差別民の9割を檀徒に持つとされ、被差別民と最も身近な仏教教団である本願寺教団だが、「真宗と被差別民」に関する研究は、部落史におけるその他の分野に比べると比較的新しい研究である。70年以前にはほとんど研究がなく、その出発点を、1975年に船越昌さんが「被差別部落形成史の研究」において一向一揆との関係を示唆したことと、ほぼ同時期の「兵庫県同和教育関係史料集」の編纂作業、そしてその過程において「本願寺穢寺帳」の存在が明るみになったことにもとめており、そしてその後の研究史を<1>部落寺院制について<2>本願寺教団における差別的制度に関する諸研究、に大別している。

  <1>は安達五男さんは提唱した「部落寺院制」、すなわち「穢寺」と呼ばれる部落寺院が特定の中本山の末寺となっているのが幕藩権力による強制か否かの議論である。否定的な説がやや強いような感はするが、決着はついていない。

  <2>の代表的な研究として、左右田昌幸さんのものがある。本願寺や在地にとって部落寺院とは何なのか、という命題を「白地黒地」論争を通して検討している。部落寺院に対する意識は、地方によって異なり、幕藩権力にとって見ても、地元の実情を調査して判断を下す場合が多いようである。

  そして、各地方における研究をどのように分析するかは今後の課題であるとして報告は終了した。

 両者とも中間報告ということで少し物足りなさを感じたが、今後の進展に期待したい。また、時間の都合上、十分な質疑応答ができず議論が発展しなかったのが残念だが、長崎での延長戦を楽しみにしたい。

(文責 藤原 豊)