調査研究

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インターネット上の差別を考える研究会
 
インターネット上の差別を考える研究会
2001年11月12日
「インターネット上の差別に関してプロバイダーとしての日常的な取り組みと問題について」

(報告)松沢栄一(ニフティ株式会社法務・海外部)


 ニフティは、「利用者の自己責任による情報発信」と「事後対応」をサービス運営の基本的な方針としている。法律上、検閲の禁止義務があるため事前審査はできない。

 監視義務は基本的になく、第三者からの通報、被害者(と称する者)からの被害の申告を端緒として、事後審査を行うことはある。

 会員規約に基づいて、IDの一時停止や退会を求めるが、前段階として、事実確認、警告、自主的な削除の要求などを行う。この段階でトラブルの多くは解決される。ただし、個人情報が掲載された場合は、被害者を緊急に救済する必要があるため、発見次第削除される。

 違法性や会員規約違反が明らかかどうかの判断はプロバイダーにとっては困難な場合が多い。表現の自由の尊重と、契約上、サービスを提供する義務があり、常に発信者と被害者との板ばさみにある。違法の情報と知りながら放置したことによる不作為行為によって削除義務違反ということにもなる。

 会員が自由にホームページを作るスペースと掲示板(フォーラムも含まれる)がある。悪質かつ違法なものでない限り、基本的にはホームページの運営は開設者である会員に任せている。

 ニフティの会員が他のプロバイダーのホームページ上で名誉毀損や差別をしている場合もニフティのサービス内で違法行為を行った場合の規定と同じで、発動できるように規約上はしているし、実際に発動しているケースもある。代表的なものは、名誉毀損と著作権侵害とプライバシー侵害である。




『特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限および発信者情報の開示に関する法律案』について

(報告)田畑重志(三重県人権問題研究所)



法律案は、第1条「法律の趣旨」第2条「それぞれの用語の説明」第3条「損害賠償責任の制限」第4条「発信者情報開示請求」から成っている。5点の課題について考えてみたい。

(1) プロバイダーにとって有利に働くのか

 情報開示の法的な手続を明文化されることで、プロバイダーは一定の負担が増えるだけだ。この法律案は曖昧さを残してプロバイダーの自主性にもある程度余裕を持たせていることに意味を持つ。

(2) 発信者とプロバイダーの関係に変化は起こるのか

 プロバイダーに有利な法律ができることで、私たちの個人情報を掌握され、発信者というより使用者全員にとって不利益であるという感情が芽生えることすらあり、IT社会にとっては不利な結末となりかねない。

(3) 本当に情報開示ができるのか

 「他人の権利が侵害されていると信じるに足りる相当な理由」が必要なこと、発信の差し止めに必要な「発信者の同意」を得ることや、開示するために必要な「発信者の意見を聞く」ことが難しいこと、などから、今の状態とあまり変わらないだろう。

(4) なぜこの法律が必要なのか、また悪用されることはないのか

 情報開示請求の道を広げることで相手を特定し、賠償を問える道を開いた。「情報開示を受けた者が悪用してはならない」という規定はあるのみで、悪用されたとしても罰則はない。

(5) 通信の秘密、表現の自由との関連は

 「何を」権利侵害の要件とするか規定がないため、「表現の自由」に抵触する危険性もある。今回の法律では、より個人情報がおろそかになる危険性は高い。

(熊本理抄)