調査研究

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2006.05.17
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維新の変革と部落(移行期研究)研究会報告
2006年1月21日
幕末〜明治初年の諸賤民の動向−構想−

吉田栄治郎

 2006年1月21日の研究例会では、当研究会の報告書作成に向けた論文構想として、以下の報告が行われた。

 報告者は、これまで二回の報告(2004年5月、2005年6月)によって、近世の大和国に存在した、穢多・夙・隠亡・万歳・神子という5つの賤民集団の幕末〜明治初年における動向の一端をとりまとめたが、本報告においては、これを下敷きとして、賤民集団による対差別戦略に焦点を絞り込んで整理する構想が発表された。その際、日本社会の周縁性と多元的アイデンティティをテーマに研究するアンヌ・ブッシーによる社会集団の戦略論-大別して、伝統的な特権をそれと認めさせる代償に初源の性格・要素を維持したまま周縁的な地位にあり続けようとする戦略と、他者性の初源の性格・要素を放棄するかわりに周縁性からの脱却を図ろうとする戦略-に対応させ、結果としての21世紀初頭以降の状況をも展望することが課題として挙げられている。

 ここで概観された諸賤民の動向は、幕末〜明治初年の段階では、他者性の性格・要素を放棄して同化・馴化の道を選択した旧穢多・神子に対して、夙・万歳・隠亡は他者性の性格・要素を強化する反同化・反馴化の道を選択したと分類することができよう。

 明治中期以降になると、旧夙・神子は他者性の初源の性格・要素の一切に関わろうとしなかったが、旧穢多と隠亡・万歳は程度の違いこそあれ、何らかの形でそれとの関わりを維持していた。

戦後は自治体による葬祭管理が進展したことにより旧隠亡はその意思とは無関係に権利を放棄せざるをえなくなり、旧万歳も廃れていったが、旧穢多(部落)だけは伝統的職能から離脱しなかった。また、部落をめぐる特措法体制は、同化・馴化を求めたものであったとしても、結果的として周縁に止まる道を選択することになったといえる。これは他者性の性格・要素を完全に放棄して同化・馴化の道を選択した他の集団とは対照的であろう。

 対差別という観点から、それぞれの道が結果的にはどのような展望を持ちうるのかという点についての見通しを述べることが次の課題であるといえる。

(文責:本郷 浩二)