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部会・研究会活動 < 児童養護施設経験者に関する調査研究事業>
 

児童養護施設経験者に関する調査研究 2007年度報告書

B5判154頁
2008年3月31日発行
部落解放・人権研究所 編集

第3章 児童養護施設経験者の体験と権利保障の課題
   ―家庭・地域、学校、施設、社会への移行(就職)、社会意識について

中村 清二


(注)ホームページ上掲載の場合、個人情報保護の点から、当事者の語りが中心の「体験」は全て割愛し、「権利保障の課題」のみを掲載した。

1 はじめに

 児童養護施設経験者(以下「施設経験者」)への聞き取り内容をもとに、<1>施設経験者が生まれ育った家庭や地域、<2>さまざまな学びをした学校、<3>基本的な生活基盤となった児童養護施設、<4>就職して社会への移行、<5>現在に至るまで体験してきた施設(経験者)への社会意識、に関する特徴的な体験を整理していきたい。その上で、そこから導き出される施設経験者の権利保障の主な課題を示していきたい。

したがって、ここで示す内容は13名の聞き取りに基づいたものという制約がある。しかし施設経験者の体験と権利保障の課題を多くの人が共有していく上で示唆するところは大きいし、その一助となることを強く願うものである。文中のカギカッコ「 」は、対象者自身の語りである。

2 生まれ育った家庭や地域

2-1 体験

<1> 家庭に関して

<2> 地域の人間関係に関して

2-2 権利保障の課題

<1> 総合的な早期の家庭支援

 以上のような施設経験者の体験から指摘できる第1の課題は、いみじくもMさんが指摘した「家庭支援、それが一番の問題ですね」「養護施設っていうのは、最終手段的なものであって欲しい」「そこまで入らないように、支援があったほうが」である。

体験でもみられたように施設経験者の家庭は、仕事(収入)の不安定さや突然の被災等から来る経済的不安定さだけでなく、離婚等の家族の不安定さや健康不安、住宅条件の不安定さ、子どもへの教育支援の困難さ等、幾重もの社会的困難を抱えやすい。そうした個々の要因が互いに結びついてより大きな社会的困難を生み出し、施設への措置という結果を生み出している。したがって、仕事、福祉、保健医療、住宅、生活、保育・教育等におよぶ家庭への総合的支援(ワンストップサービス)とその拠点施設、中学校単位の相談体制(例えばコミュニティ・ソーシャルワーカーやスクール・ソーシャルワーカー)、そしてそれらのネットワークが必要不可欠である。

今回の聞き取りの限られた情報ではあるが、家族の生活基盤が様々な理由から徐々に崩れだし親に養育を任せられないという時点で施設への措置が起こっている。したがって徐々に崩れていく過程が始まりだした時、出来うる限り早い時点でそれを発見し、必要な総合的相談と支援の実施が必要なのである。

<2> 地域の支えあう人間関係作り

第2に、地域社会の支えあう人間関係づくりとそれを支える公的機関が重要である。BさんやGさんに象徴されるように、大阪の同和地区の場合、部落解放子ども会、教育保護者組織、解放運動といった自主的取組みと、それを側面的に支援する青少年会館、旧解放会館、保育所や小中学校等のさまざまな公的機関とそのネットワークが存在し家庭支援に一定の積極的役割を果たしている。こうした中で生まれた地域の親密で豊かな人間関係は、社会的困難を抱える人々の精神的な安定に一定の役割を果たすと同時に、具体的支援のネットワークとしても機能する大きな可能性を持っている。この点で、大阪府内のすべての中学校区で設置された地域教育協議会(すこやかネット)が果たす可能性に注目したい。

3 学校生活

3-1 体験

<1> 教員と施設の子どもとの関係

<2> 施設の子どもの学力

<3> 友達関係

<4> 進学をめぐって

3-2 権利保障の課題

<1> 施設を訪れることから始まる信頼関係

同和教育の歴史の中で「差別の現実に学ぶ」ことの重要性が繰返し確認されてきた。それは学校における部落の子ども達の表面的な言動だけを見るのではなく、しっかりとそれらを受け止め、その背後にある家庭や地域に存在する部落差別を捉え、それを子どもや保護者さらにはクラスの友だち等と共有し「差別に負けない」方向を共に歩んでいくことであった。

こうした基本姿勢や考え方は、対象こそ違え、児童養護施設の子ども達に対しても同様である。同和教育を誠実に取組んできた教員や学校が、施設の子ども達から信頼を得ることができたのはその意味で必然的な結果である。また、まず子どもを受け止めることを大切にしている保健室の教員も同様である。

具体的な取組みとして、学校として施設への定期的な訪問を行うことは不可欠で、同和教育で家庭訪問を重視してきたことと同様である。またこうした信頼関係を、下記の人権教育や学力保障、クラスの仲間づくり、進路保障等の取組みを通じてさらに深めていく必要がある。しかし「基本的に、立場が違いますよね。その…観点が違いますよね、教育と福祉では。上から引っ張りあげんのと、下から一緒にあげるというか、あげんのと。」というFさんの指摘や「施設の子の問題は施設の方で何とかしてほしい」という学校の本音の現実がある。また施設に子どもを送り出した学校のその後の関わりが、聞き取りでは全く出てこなかった。まさに「人権尊重の精神に立つ学校づくり」(参照:文科省人権教育の指導方法等のあり方に関する「第3次とりまとめ」2008年3月)の内実が問われている。

<2> 様々な教科で施設のことを意識した人権教育

Cさんが「お母さんがいて(両親がいて)当り前」という前提での家庭科の授業は「結構しんどかった」と話したように、施設の子ども(さらには単身家庭の子ども)の自尊感情を傷つける授業内容を改善していく必要がある。そのためにも第1に、旧来の伝統的固定的な家族観を前提にするのではなく、現存する「多様な家庭・家族」の肯定的理解を促進し自尊感情を回復する授業内容を検討する必要がある。

第2に、施設や子どもの権利条約等の体系的な学習カリキュラムを検討する必要がある。

第3に、不登校が中1で急増する構造と同様、中学校は施設の子どもにとって大きな不安と重荷をもたらしやすいし、「やんちゃ系としての中1デビュー」の一要因でもある。従って、施設が校区にない小学校(中学校)においても、施設が校区にある小学校(中学校)と同様に人権教育に取組む必要がある。また授業や諸行事などでの小小連携や小小中連携を進め、その垣根を低くしていくことが必要である。

第4に、施設の子ども達の中卒・就職者の割合が9.3%(全国児童養護施設協議会「平成17年度児童養護施設入所児童の進路に関する調査報告書」)で、全国平均0.6%と比べ極めて高いことを考えた時、労働権やコミュニケーション力などを重視したキャリア教育が重要である。

<3> 施設と連携した学力保障の取組みを

施設の子どもの学力状況はかなり厳しい実態にあるが、そのことが施設の子ども達の自尊感情を傷つけたり友だち関係づくりの大きな壁になったり、進学・就職にマイナスの影響をもたらしている。しかし学校教育は決して無力ではなく、中2までは自暴自棄の生活で、5教科で2ケタだったMさんが、学校や施設の取組みの中で最終は300点を越えたという。

「力のある学校」(参照:志水宏吉「しんどい子に学力をつける7つの法則」『学力を育てる』岩波新書2005年、大阪府教委『学校改善のためのガイドライン』2008年2月)をめざした学校づくりを基盤としながらも、施設の子ども達に対するきめ細かい個別メニューを実施する必要がある。それには学校内での取組みだけでなく、ロールモデルとなる施設職員や子どもの存在、施設で学習できる条件や雰囲気の保障、進学への経済的支援の協力など施設との協働が不可欠である。

<4> 施設の子が安心できる学級経営

施設の子ども達にとって、他の子ども以上に子ども同士の関係性の与える影響が大きい。直接間接はあるが施設経験者ということでいじめを受けたりや友だち関係を作れなかったという一方、友だちができたり一緒のクラスのなれたことで学校生活が楽しくなったという話が多く聞かれた。施設の子どもの場合、「試し行為」のように安心できる仲間を求める気持ちが屈折して表され誤解されやすいが、その思いは当然ながら大きい。

だからこそ施設の子どもの思いと良さを教員がしっかり受け止めると同時に、それをクラス全体でもいかに共有・共感できるかが重要である。またそれは施設の子のことを他の子が受け止めるという一方通行の関係だけでなく、双方向性が不可欠である。こうしたことを大切にしながら、クラスや学年の仲間づくりに繋げていく必要がある(参照:松原市立布忍小学校教師集団著『私たちがめざす集団づくり――子どもが輝く学校に』解放出版社、2002年、松下一世『子どもの心が開く人権教育――アイデンティティを求めて』解放出版社、1999年)。

<5> 将来の見通しと結びついた進路(進学)保障

進学の動機に関わっては、本章5節「社会への移行(就職)」の「<3>専門学校・短大・大学卒業者の場合」の語りが象徴的だが、ロールモデルとなりうる施設職員や先輩の存在が大きな意味を持っている(これは進学についてだけでなく就職の場合も同じだが)。

したがって学校教育においても、第1に施設と連携しながらこうしたロールモデルとどのように出会えるかを検討する必要がある。

第2に、個々人の仕事や人生への希望や夢を実現可能とする条件―推薦指定校の活用や様々な奨学金の活用、アルバイトによる貯金、住宅の確保等―を施設や児童相談所をはじめとした関係機関と共に検討し、当事者と一緒に考えていく必要がある。

第3に、そのためにも施設と連携して中学校・高校による早い時期からの進路保障の取組みと両者の連携が求められる。「検定テストにお金がいるので取らなかった」(Kさん)、「高校の先生は施設の子が社会に出ていくことが大変だという認識がない」(Cさん)といった事態を生みだしてはいけないのである。

第4に、高校中退者の問題がある。さきの全養協の2005年度調査によれば、高校中退者は260名で7.6%あり、全国平均2.1%の3倍強である。しかも中退者の「施設への措置継続」は54名(20.8%)と大半は退所している現状がある。進路保障の一環としての中学校による18歳までの「追指導」と高校の真摯な取組みが求められる。

第5に、学習のやり直しの機会を積極的に保障することが求められる。中卒だったJさんは、偶然が重なり定時制高校を出て専門学校も卒業できたが、定時制・通信制高校の充実と関係者への周知が必要である。

<6> 施設の子どもたちの権利保障に関する教員研修と実践交流の場

 以上の5点をはじめ施設の子どもたちの権利保障に関わる内容の教員研修ならびに関係校の実践交流会が重要である。施設の子どもたちの権利保障に関わって、教員間や学校間の施設経験者に関する認識の温度差があまりにも大きすぎる実態があるからである。

<7>教育条件の抜本的改善

第7に、施設の子ども達を支援していくため、一連の教育条件の改善が必要である。1つは、児童生徒支援加配教員の確実な配置である。学校としての組織的な取組や施設との連携のためには、児童生徒支援加配教員の確実な配置は不可欠である。2つは、「追指導」のための人的財政的バックアップである。3つめは、高校のクラブ活動や資格テスト等、施設の子ども達の自立支援にとって必要な費用を措置対象にしていく必要がある。4つめは、施設の子ども達の経済的条件からしても彼/彼女たちに対しては高校・大学の奨学金を「給付制」で、特に退所を迫られる大学生に対しては家賃を含めた生活関連費用も一定対象にした金額にすべきである。5つめは、既に実施されている大阪府の進路選択支援事業の対象に施設の子ども達を確実に位置づけ、支援していくことである。6つめは、施設の子どもが在籍している学校だけでなく「施設へ送出した学校」も含めて、教育委員会が施設の子ども達のエンパワメントのための指針を確立する必要がある。

4 施設の生活と施設への認識

4-1 体験

<1> 職員と子どもとの関係

<2> 子ども同士の関係

<3> 施設への認識

<4> 家族(親)との関係

4-3 権利保障の課題(2)

<1> 施設での肯定的体験と肯定的見方

施設経験者が、施設に対する誤った社会意識等に影響され施設や施設で育ったことを否定的に捉えてしまい、その結果、自己否定に至ってしまうことは少なくない。これは施設経験者の自尊感情を傷つけるものであり、子どもの権利条約第20条にも反することである。

これに対しまず第1に、誤った社会意識に対する改善のための教育・啓発が実施されるべきであるし、同時に、権利保障にふさわしい施設(経験者)への十分な施策が実施されるべきである。

第2に、施設での肯定的体験に基づく肯定的見方が可能となるようにすることである。聞き取りの中でも、施設での「高校・専門学校・短大・大学へ行けた」「人と職員や子ども同士の良い出会いを得た」「不登校や人間不信・自己否定を克服できた」等の体験を通じ、施設に入所して「良かった」=「隠そうとは思わない」という話がされている。

<2>「親の現実」を直視する力

第3に重要な点は、家族の再統合か恒久的な分離かは問わず、「親の現実と社会的背景」=「入所理由」を、子どもの状況を踏まえ工夫をしがらではあるが可能な範囲から教え「親の現実」を直視する力を「施設として」保障することである。

これは、「親への恨み」=「なぜ自分だけが不幸なのか」(施設への不満・不安と重なっている場合が多いが)という意識から、あるいは「親への憧れ願望」(小さい時から施設で育った子の方が強い傾向)が現実に裏切られた時の失望感から自暴自棄となり「荒れ」ていく、という施設の子ども達の多くのが陥りやすい現実から必要とされている。

もう1つの必要性は、施設にいる時も出た後もそうだが、施設の子どもの場合「1人の辛さ」に立向かっていく力がいるが、それは「腕力ではない自分への自信」=「人がない経験が出来たんだから人より大きい人間になれる」という自信であり、その自信を得るためにも「親の現実」を直視する力が必要である。

5 社会への移行(就職)とその後

5-1 体験

<1> 中学校卒業者の場合

<2> 高校卒業者の場合

<3> 専門学校・短大・大学卒業者の場合

<4> 親や家族関係

5-2 権利保障の課題

<1> 就職時の総合的支援

 全国児童養護施設協議会の「平成17年度児童養護施設入所児童の進路に関する調査報告書」によれば、中学校卒業1703名中、就職者158名で9.3%(全国平均0.6%)、高校卒業者840名中、就職者651名で75.1%(「一時就労」6.1%を含む。全国平均17.4%)という実態がある。中卒者、高卒者、いずれの場合も就職者の割合が全国平均と比べれば極めて高い。また、高卒者で就職による退所後の住宅状況は、寮54.0%、アパート19.9%、親等と同居15.7%である。

 そして聞き取りの中では、「中3で始めた仕事から仕事は転々」「字の読み書きができなかった」「就職組の中3での荒れ」「寮がある(住み込みできる)職場」「親元を離れたい気持ちから希望職業はない」「高3の冬休み前にやっと相談」「人と接するのが苦手」「1人になって仕事も上手くいかず寂しかった」「出し汁の意味が分からなかった」「就職支度金が入るまで大変」「就職支度金で要らないスーツを買わされ必要な物が買えなかった」といった実態が話された。

 こうした施設の子ども達の実態を見た時、就職時において仕事はもちろんのこと、住宅関係、職場等での人間関係、日常生活面など総合的な支援が必要とされている。そのためには、施設だけでなく学校・教育委員会・児童相談所など関係機関が組織的に連携を取り支援体制を組む必要がある。

 特に制度面の改善については、住宅に関して公営住宅への優先入居や就職支度金の早期支給を実施すべきである。また、福祉施設関係の職員の賃金の低さが話されていたが、その改善は重要で、人件費の措置単価の改善等が必要である。

<2> 最低18歳までの追指導と相談のネットワーク

 中卒就職者の割合の高さ、15歳で社会に出て働くことの困難、親等からの支援も多くは期待できない等の状況を見た時、少なくとも18歳までは中学校や施設・児童相談所等が協力して「追指導」を行ない、子どもを支えていくべきである。

また19歳以降も、高校や施設・児童相談所等が相談体制を組み支援を継続すべきである。全国平均でも3年以内の企業からの離職率は、中学卒で7割、高校卒で5割、大学卒で3割であり、聞き取り調査対象者(高卒就職者)3名の内2名はフリーターという実態を考えると、19歳以降の継続的な支援の必要性は大きいといえる。42頁の語りで専門学校へ行きたいと考えていたがお金も貯まらない中「今はもういいやって感じ」と話していたAさんだったが、その後、奨学金も得て専門学校に通っているという。こうした頑張りを支える社会的機能の整備が不可欠である。実際、施設にはその担当として「ファミリー・ソーシャルワーカー」が措置されているが、施設職員総数そのものが少ないこと、職員の在職期間が短いこと、アフターケアのための交通費も措置されていない等から十分に機能しているとは言えない現状があり、抜本的な対策が必要である。特に「親元を離れたい気持ち」から遠方に就職・居住している青少年の場合、どのように有効に支援していけるのかを検討する必要がある。また大阪府では就職困難者等の総合的支援事業として地域就労支援事業が実施されているが、この事業とのリンクも実現していくべき課題である。

6 施設への社会意識

6-1 体験

6-2 権利保障の課題

<1> 市民・企業への人権啓発、学校での人権教育

近年、年間約4万件近い児童虐待の相談が存在し、施設に措置された理由の半数以上が「虐待」という状況が存在する一方、施設や学校では多くの困難とその改善に取組みが始まりだしている。人権啓発の分野でも、いわいる「人権教育・啓発推進法」に基づく「人権教育・啓発に関する基本計画」(2002年3月)で2000年制定の児童虐待防止法を受けて「児童虐待」がテーマに位置づいている。

しかし児童養護施設の子どもの人権については全く触れられていない。こうした状況を反映してか、大阪府内の自治体が発行している近年の人権啓発冊子を見ると、児童養護施設や経験者の課題は全く触れられていない。

聞き取りの結果では、施設や子どもに対しては「同情」と「見下し」に基づく偏見や差別意識が存在していることは明らかであり、市民や企業に対する人権啓発の一環として、あるいは学校での人権教育の一環として早急に児童養護施設の課題が取組まれる必要がある。

その際、留意すべき点は第1に、社会的養護は子どもの権利条約20条でも謳われているように権利であるという点である。第2に、虐待を個人(家庭)の自己責任にのみ帰すのではなくその社会的背景を明確にすることである。即ち、虐待に至る社会的背景には、経済的貧困(格差拡大社会の進行)、社会的養護の公的システムの弱さ、社会的孤立と周辺の無関心(地域コミュニティの崩壊)、父親等の家事育児への非協力(伝統的性別役割分担論)等があるからである。第3に、学校教育でも触れたが、「両親がいる家庭」という伝統的家庭観に縛られないことである。

長く続いた日本の経済成長の中で、企業と家庭が福祉・教育の重要な部分を担ってきたが、グローバル化の中で今日、それが大きく揺らいでいる。児童養護施設の課題は、こうした社会変化の中で生じている社会的課題であることを明確にすべきである。

<2> 責任体制の確立

上記の人権啓発の弱さの一因は、「タテ割り行政」にある。児童養護施設の所管は福祉を所管する厚生労働省だが、人権啓発は法務省、学校教育は文部科学省というように違っており、人権啓発や人権教育についての連携がほとんど取れていないため責任の所在もあいまいになっている。これは人権啓発にとどまらない大きな課題でもある。

人権啓発の強化のためにも、責任体制を明確にすると共に連携を強化していく必要がある。