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2007.07.23

SOSニュース2006年度報告と2007年度の取組みについて

 「SOSトーチャー翻訳委員会(日本)」は、1987年11月の結成以来、本年で20年目を迎えます。当初より、スイスのジュネーブに本部を置くNGO「世界拷問防止機構」(OMCT/SOS- TORTURE)から送られてくる公権力等による拷問、不法な拘禁、殺害などに関する速報を日本語に翻訳し、人権関係団体、マスコミ、労組、政党、個人の方々に送付して、解決のための働きかけを要請してきました。

 また、1997年度からは「国際人権連盟」(FIDH)と「世界拷問防止機構」(WOAT)との共同プロジェクト「人権擁護家保護のための監視機構」による速報、2003年度からは「世界拷問防止機構」と「人間居住ネットワーク・ハビタット・インターナショナル連合(HIC-HLRN)」による共同要請速報も翻訳し、働きかけの要請を行なってきました。2006年度(2006年4月~2007年3月)は、ホームページに月平均約17,336(2005年度の月平均約11,233)のアクセスがあり、メールマガジンの定期購読者は2007年3月31日現在で187人でした。

 これまでに翻訳した事件数は、2007年3月20日号現在で通算3926件です。これまで世界各地で活動するSOSトーチャーのネットワークメンバーであるNGO等の働きかけなどによって、解決された事件もありますが、依然として拷問、虐待、超法規的処刑、人権擁護活動家への人権侵害などが繰り返されているのが現状です。

 こうした、厳しい状況を踏まえ、当委員会の活動を充実させるために、2006年度の報告と2007年度の活動計画をお知らせします。

【1】2006年度のニュース(速報)の報告

【2】2007年度の取り組みについて

【3】2006年度のニュースの発行状況に関する資料


【1】2006年度のニュース(速報)の報告(資料を参照)

概要について

1.全体

2006年度は、2006年4月1日号から2007年3月20日号 まで36回を発行し、39カ国(地域)における105件の速報を翻訳発行しました(2005年度は33ヶ国/地域で、122件でした)。

事件の内容は、人権活動に関わるNGO関係者、知識人、弁護士、労働組合員および一般市民に対する恣意的逮捕および拘禁、あるいは、これらの人びとの隔離拘禁、逮捕時や拘禁中における虐待や拷問、超法規的処刑であり、さらには軍隊や警察関係者による脅迫や虐待、女性や子どもへの性暴力に関するものでした。昨年同様、SOSトーチャーでとりあげた事件の対象者の半数以上は、人権問題に直接関与する活動家、弁護士、ジャーナリストなどでした。また、軍関係者などによる女性や子どもの暴力事件も16件ありました。

105件のうち「世界拷問防止機構」(WOAT/SOSトーチャー)と「国際人権連盟」(FIDH)との共同プロジェクト「人権擁護家保護のための監視機構」の速報は46件あり(追加情報含む)、「世界拷問防止機構」(WOAT/SOSトーチャー)からの速報は59件ありました。

世界的な要請行動が効を奏して釈放/改善されたケース、あるいは最初の速報から事態が進展したケースは、そのうち32件ありました。以下、地域別に分類した事件の特徴についてご報告をします。

尚、SOSトーチャー翻訳委員会では、「世界拷問防止機構」から送られてくるケースの多数を翻訳していますが、スペイン語やフランス語で書かれたケースを含め、すべてのケースを翻訳しているわけではないことをここでご報告しておきます。

2.アジア 36件

ネパールでは、2年前に治安部隊に連行されたまま消息を絶っている青年、自白強要の拷問で殺されたインド国籍の青年、警官による少女のレイプ事件、マオイストによる強制的徴兵、拷問被害救済を申請した被害者に対する政府軍とマオイスト軍からの嫌がらせなど、政府・マオイスト派両者による一般市民の人権侵害が続きました。

マレーシアでは、宗教的寛容を訴える人権弁護士の殺害をネット上で呼びかける事件が起きました。

超法規的処刑が大きな問題になっているフィリピンでは、左派政党傘下の活動家が治安部隊に恣意的に逮捕されました。

タイでは、警察の人権侵害を訴えた村長が射殺されました。

ベトナムでは、民主活動家弁護士が恣意的に逮捕されました。

ミャンマーでは、レイプ被害の少女たちが逮捕される事件が起きました。

バングラデシュでは、土地問題にからみ女性がいきなり硫酸を浴びせられる事件が起きました。

パキスタンでは、大学職員による女子学生の集団レイプ事件が起きました。

インドでは、NGOの職員が恣意的に逮捕されました。

中国では、政府への陳情や自治体批判を行った人びとへの嫌がらせとして、不当な拘束や拘束中の拷問が目立ちました。また、ジャーナリストの恣意的逮捕や、人権侵害被害者の代理をつとめる弁護士への逮捕や嫌がらせが相次ぎました。

韓国では、公務員組合に対する政府の弾圧が続きました。

3.NIS諸国 15件

ウズベキスタンでは、自白強要で8年の実刑判決を受けた男性が恩赦で釈放されました。その一方で、NGO関係者に対する恣意的逮捕や嫌がらせが続きました。

キルギスタンでは、妊婦が警察で拷問を受けて流産する事件が起き、検察官に暴力を受けて訴えた女性が名誉毀損で逆に訴えられる事件が起きました。

トルクメニスタンでは、恣意的拘禁中のNGOメンバーの家族に対する当局の嫌がらせが続きました。

ロシアでは、亡命者支援のNGOメンバーが襲撃される事件が起き、平和集会を主催したNGOの理事が恣意的に逮捕される事件が起きました。

4.中東(北アフリカ・アラブを含む) 18件

イスラエルでは、2005年5月から起訴もなく拘禁されているパレスチナのNGOの活動家の拘禁が続きました。

イランでは、女性団体のホームページの閲覧が当局により妨害されたり、平和集会参加中の女性活動家33人の恣意的逮捕が起きました。

アンゴラでは、恣意的に逮捕されたNGO職員が釈放はされたものの嫌疑は取り下げられませんでした。

シリアでは、人権研究所所長が国際会議の出席を妨害されました。

エジプトでは、農民たちが強制退去され、虚偽の嫌疑で裁判にかけられる事件が起きました。

カメルーンでは、NGO職員が恣意的に逮捕されました。

5.中南米 14件

今年度になり、これまでスペイン語でしか送られてこなかった人権侵害の速報の一部が英語に翻訳されて送られるようになりました。

コロンビアでは、軍隊による女性市民のレイプ事件、武装地域の住民の人権侵害事件、大学教授の暗殺事件などが起きました。

メキシコでは、強制退去で1人死亡50人負傷、200人が逮捕される事件や、平和デモ参加者が恣意的に逮捕される事件が起きました。

アルゼンチンでは、軍政時代の人権侵害裁判の証人が失踪する事件が起きました。

ブラジルでは、子どもの人権NGO代表が恣意的な裁判に付されました。

ペルーでは、同性愛者のグループに対する警察の恣意的逮捕、虐待事件が起きました。

チリでは、恣意的拘禁と非人道的処遇に対して被拘禁者がハンストを行いました。

6.中央アフリカ、南部アフリカ 20件

 スーダンでは、昨年に続き、ダルフール地方の国内避難民キャンプで活動する男性8人が理由もなく治安部隊に連行される事件が起きました。また、武装グループが避難民キャンプを襲撃して3人が殺傷の被害を受けたり、民兵が避難民女性をレイプする事件が起きました。

コンゴでは、軍によるジャーナリストの虐待事件や、母娘をレイプ・殺人する事件が起きました。また、暴力団による性犯罪が多発しました。

ジンバブエでは、労働組合が弾圧される事件が起きました。

リビアでは、400人の子どものHIV感染は外国人医師団の責任であるとした恣意的裁判で被告の医師たちに死刑が宣告されました。

アンゴラおよびカメルーンでは、NGOの活動家が恣意的に逮捕されたり、嫌疑をかけられました。

7.ヨーロッパ 2件

 ヨーロッパでは、トルコの事件を2件速報しました。人権擁護家数名が相次ぎ逮捕され虐待される事件が起きました。

【2】2007年度の取り組みについて

 2007年度の取り組みとして、以下のような課題を考えています、今後ともご支援と要請行動への積極的参加をお願いいたします。

(1) 「SOSニュース」の翻訳発行を継続し、内容の充実を図る。

部落解放・人権研究所職員1名と翻訳ボランティア1名の2名で、ジュネーブから配信されてくるケースを翻訳しています。事件解決のためには迅速なケースの配信が必要なため、翻訳作業を助けてもらえる翻訳ボランティアを今後も募っていきます。

2006年度より、中南米諸国の速報が英語に翻訳されて送られてくるようになりました。そのため、SOSの情報が地域的に多様になりました。重要なこととして、関係国の当局に日本から要請が送られるようになったことは、事件解決の点から見ても望ましいことです。

アフリカ諸国の速報はフランス語で送信されてくるため、今後はこれら速報を少しでも日本語で提供できるようにすることが課題として残されています。

SOSニュースで配信する人権侵害事件の背景を読者の方々によりよく理解してもらえるよう、必要に応じて関連情報を提供する可能性を引き続き検討します。また、一昨年度より、要請行動によって改善されたケースを「グッドニュース」特集として報告していくことを課題にしていますが、残念ながら、特集するに至る件数にはなりませんでした。

(2) [SOSニュース]の積極的な活動紹介

要請行動後、各国当局からの返事を受けた場合など、読者からSOSニュース翻訳委員会事務局に情報提供をしてもらえるよう引き続き求めていきます。

国際的な人権問題に取り組んでいる団体や雑誌などに、翻訳委員会のニュースを提供し、情報活動を拡大するとともに、要請行動へのより幅広い参加を求めていきます。

 

(3)[SOSニュース]の配信の状況

1. 部落解放・人権研究所のホームページへの掲載

  毎号、すべての事件の日本語訳と英語原文を部落解放・人権研究所のホームページに掲載しています。要請行動の例文および要請先のアドレスも掲載されていますので、カット&ペーストで活用していただけます。URL:http://blhrri.org/kokusai/sos/sos.htm

2. メール・マガジンによる配信

  登録いただいている読者に、毎号、事件の日本語訳と英語原文を配信しています。現在の登録人数は187人です。

3. 『法律新聞』等への掲載

  週刊『法律新聞』に毎号、SOSニュースで取り上げた事件のダイジェストを掲載していただいています。

4. 個人への送付

  郵送の登録をしていただいている個人の方に、SOSニュースを郵送にてお送りしています。