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意見・主張
 
研究所通信261号より
掲載日:2000.5
提言

2001年反人種差別世界会議に向けて
−IMADRからの提起─

藤岡美恵子(反差別国際運動)

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 来年、国連は反人種主義・人種差別撤廃世界会議を南アフリカで開催する。第2回世界会議(1983年)から実に17年ぶり、しかも冷戦終結後の民族間の紛争や外国人排斥の一層の激化、そして何よりも経済のグローバル化が世界のさまざまな地域で被差別集団にしわ寄せをもたらしている中で開かれるこの会議のもつ意義は、いくら強調しても強調しすぎることはない。IMADRはこの会議に向けて、さまざまな活動を行うが、とくに次の4つのテーマをとくに重点課題としている。

1. グローバル化の被差別集団 への影響
2. 「門地(世系)」に基づく差別
3. 複合差別
4. アファーマティブ・アクシ ョン

 これらのテーマを選んだ理由は、IMADRの特徴を生かし、国際的にも注目してこなかった問題を取り上げること、そして現在のグローバル化の中での人種差別撤廃の課題を打ち出すことにある。

 会議に向けてIMADRが現在行っているのは、この4つのテーマのもと、日本からも含め、IMADRのメンバーや協力団体から具体的なケースや地域的な分析などを収集し、それをもとに報告書を作成することである。これをもとに世界会議への提言をなし、キャンペーンを行っていく予定である。具体的にはIMADRがプロジェクトを行っている地域から、たとえばグァテマラではグローバル化が先住民族にどのような影響を与えているか、またグァテマラの先住民族やスリランカの民族紛争の中でも、女性のおかれた複合的な差別の状況がどのようにあらわれているかについて報告書をまとめることになっている。

 これらは日本にとっても非常に関わりのあるテーマである。

 門地にもとづく差別はまさしく部落差別を含むものであり、IMADRは世界会議に向けてこうした差別問題に国際社会がもっと注目すべきだというロビーイングとキャンペーンを行っていく。

 複合差別については、日本の被差別グループに属する女性が抱える複合的な差別の実態をあきらかにするために、日本委員会が研究会を発足させたが、まだ実態の把握もなされておらず、差別にとりくむ団体内での本格的な議論もこれからというのが日本の現状ではないだろうか。

 アファーマティブ・アクションは日本では本格導入すらされていないが、アメリカなどでは保守派から批判の対象となっており後退の傾向にある。また、自由市場経済のグローバル化は福祉の後退や先住民族の権利の侵害などを生み、むしろ差別を強化しているといえる。これは日本のような先進資本主義国の中でも新たな階層分化という形で表れている。こうした階層分化の強化が、被差別部落や他のマイノリティにどういう影響をあたえているかという問題は、世界的に見ればすぐれて今日的な研究テーマである。

 IMADRはこうした問題について、部落解放・人権研究所としてもさまざまな研究課題を設定してとりくんでいただくことを提起したい。たとえば、部落差別の中のジェンダーの側面についての調査・研究がある。IMADRとしてはこうした研究の成果を是非世界会議に提出し、それを通じて複合差別についてとりくみを行っている世界の他の団体、研究者等とのネットワークを作っていきたいと考えている。それをたんなる研究に終わらせずに、被差別グループに属する女性たち自身や、女性団体、差別問題にとりくむ運動体等による具体的な行動につなげていくというのがIMADRの目標であるが、こうした長期的なとりくみのなかでも、まず調査・研究の分野において部落解放・人権研究所のような機関が果たす役割はきわめて重要だ。具体的には、世界会議後に複合差別についての世界の研究者・活動家ネットワーク会議を開催するなどの案を検討してもよいのではないか。

 アファーマティブ・アクションについても、これからは他国(とくにアメリカ)の制度を一方的に学ぶという段階から、たとえば同和対策事業などの日本の中の経験をまとめ、他国のそれと比較して、世界的文脈と世界的研究レベルの中に位置づけるという作業が必要ではないだろうか。というのも、アメリカなどで台頭しているアファーマティブ・アクション不要論が支持を得るのは、一部には現行の制度が実際にさまざまな問題を抱えているためでもある。現行の差別是正措置の問題点を把握し、これからの課題を明らかにする作業は日本でも行う必要がある。

 こうした課題に研究と運動の両側面から、共通の問題意識と目標をもってとりくんでいくことが必要とされている。そのためにIMADRとしても研究所との協力関係をさらに発展させていきたいと考えている。